タコは、日本を始めとしてヨーロッパやアジアで日常的に食べられている魚介類のひとつだ。2021年11月には、イギリス政府がタコを含む十脚目および頭足類を「感性のある動物」として、アニマルウェルフェアの観点から動物福祉(感覚)法の保護対象に追加。タコやカニも苦痛を感じることを認定し、調理法の配慮を呼びかけたことで多くの話題を呼んだ。
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すでにスイスやニュージーランドを含む一部の国では、甲殻類を生きたまま調理することが法律で禁止されている。
そうしたなか、オーストリアのフードテックスタートアップ「Revo Foods」は、世界初のヴィーガンタコ「The Kraken – Inspired by Octopus」を小売用に発売した。2024年3月15日から、同社のオンラインショップ限定で販売されている。
ヴィーガンタコ「The Kraken」は、菌類由来の代替たんぱく質・マイコプロテインと3Dプリンティング技術を組み合わせて製造される。
主成分となるマイコプロテインは天然の繊維質で、タコの食感や口当たりを再現するための加工が少なくて済む。その結果、植物由来の代替製品に使われる一般的な原料と比べて、微量栄養素やビタミンをより多く保つことができるという。
また、本物のような見た目や香り、味だけでなく、栄養価の高さも注目ポイントだ。フランスを中心にヨーロッパで導入されている包装前面栄養表示のニュートリスコアでは、最高評価のAランクを獲得。さらにタンパク質やオメガ3脂肪酸、食物繊維も豊富に含んでいる。
「The Kraken」はすぐに食べられるうえに、グリルや揚げ、焼きといった加熱調理も可能。ヴィーガンの方はもちろん、甲殻類や軟体類、貝類などのシーフードアレルギーを持つ方でも、安心してタコ料理を楽しめる。
この製品は、Revo Foodsが実施するクラウドファンディングキャンペーンから生まれた。CEOのRobin Simsa氏はThe Krakenの特筆すべき点として、タコには既存の代替品がないという事実と、自社の技術で実現可能なショーケースとなる超ユニークな見た目を挙げている。
同社は、今回の発売で消費者のフィードバックについてより多くの情報を得るとともに、いくつかのレストラン・パートナーともサンプルを共有したい考えだ。フィードバックが肯定的で、市場機会が十分に大きいと判断されれば、2024年後半に製品を恒久的に発売する可能性もあるという。
2021年に設立されたRevo Foodsは、2023年9月にスーパーマーケットで初となる3Dプリント食品であるヴィーガン サーモン フィレ「THE FILET – Inspired by Salmon」を発売し、世界から注目された。今秋には「THE FILET – Inspired by Salmon」第2弾の生産を開始する意向だ。さらに複数のパートナーと協力し、ニーズに応じて3D製造技術による食品のカスタマイズにも取り組んでいる。
国連食糧農業機関(FAO)の統計によると、EUでは2018年に約12万5000トンのタコを消費した。また、アジアにおけるタコの消費量はさらに多く、19万トンに達しているという。こうした需要の増加に伴い、世界中で乱獲が行われていることでタコの個体数は逼迫しており、タコの水揚げ量も数年前から減少傾向にある。
そのため各国で養殖の動きが進んでいるが、タコの養殖はアニマルウェルフェアに反するうえに、環境破壊も招く恐れがあり、持続可能な供給手段とはいえないだろう。さらに、1kgのタコを生産するには約3kgの餌が必要となり、その餌には魚粉や魚油など海洋資源が使われる。タコの養殖を推進すれば、海洋資源の枯渇を早めることにつながりかねない。地球環境を保護しながらタコを安定して供給するには、代替品が有効な解決策といえるだろう。
日本でも馴染み深い食材だからこそ、こうした持続可能性を脅かす問題があることや、Revo Foodsのように新技術を活かした企業の挑戦が重要だということを知っておくべきなのではないだろうか。
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【参照サイト】 Global Octopus Landings Declining | Fish Focus
【参照サイト】 OCTOPUS FACTORY FARMING:A RECIPE FOR DISASTER | Compassion in World Farming