見た目も味も本物さながら。分子コピーから製造された「植物性ハチミツ」が登場

「なぜヴィーガンはハチミツを食べないのか」疑問に思ったことはないだろうか。ヴィーガンは、「人間の目的のために動物を搾取するべきではない」という“ヴィーガニズム”の主義に基づき、動物性食品を摂取しないことを選択している。そのため、ミツバチが懸命に集めたハチミツを人間が収穫することは、ヴィーガニズムに反すると考えハチミツを食べないのだという。

ミツバチは、食料システムにおいて重要な役割を担う存在だ。アメリカ農務省は人間が摂取する食材の約3分の1は、野菜や果物などの「昆虫受粉植物」に由来するとしたうえで、昆虫受粉植物の受粉の80%がミツバチによって行われていると推定している。一方で、近年ミツバチの生息地の破壊や、気候変動、有毒農薬の蔓延、巣を滅ぼす蜂群崩壊症候群などさまざまな要因によって、ミツバチの個体数の減少が深刻化している。

そうしたなか、アメリカのカリフォルニア州に本拠を置く「Melibio」が開発したのが、ミツバチを介さずに製造される「ミツバチフリー」ハチミツだ。本物のハチミツの分子コピーから製造され、植物の花粉も成分に含まれる植物性ハチミツは、見た目、味、機能も従来のハチミツと変わらないという。

同社の共同設立者兼CEOのDarko Mandich氏は、8年間ハチミツ生産業に従事した経験があり、そのなかでサプライチェーンの問題やハチを脅かす課題を知り、持続可能なハチミツ製造の必要性を痛感したという。貴重なミツバチに負担や影響のかからない革新的な科学技術を用いた同社は、2021年11月にアメリカのニュース雑誌「TIME」が発表した2021年の最高の発明」に選出されたことでも注目を集めた。同社は、今後オーガニック食品製造の「Narayan Foods」とパートナー契約を結び、2023年にヨーロッパの75,000店舗で同商品を販売開始予定だという。

近年、ヴィーガン人口は世界的に増え続けている。2019年の観光庁の資料によると、主要100ヶ国・地域における、ヴィーガンを含むベジタリアンの人口は、毎年約1%近くの増加傾向にあるという。健康上の理由や、環境への配慮だけでなく、宗教やアニマルウェルフェア、食糧危機に対する懸念など、ヴィーガン・ベジタリアンを選択する背景はさまざまだ。

日本での市場拡大も予想される一方で、まだ対応する飲食店が少ないためヴィーガン・ベジタリアンの人にとって外食は気を遣うことだ。訪日ベジタリアンなどを対象とした観光庁の調査によると、「菜食などのオプションがなく食べたい料理を諦めたことがある人」は55%、また「対応店でないと入店しない」と回答した人は45%もいることが明らかになっている。

飲食店のヴィーガン対応が求められるなか、本物のハチミツと変わらない味わいでありながら持続可能な方法で生産された植物由来の「ミツバチフリー」ハチミツは、飲食店のメニューの幅を広げてくれる存在になりうるだろう。

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【参照サイト】Melibio’s Bee-Free Honey to Launch in Europe Next Year
【参照サイト】The honey industry
【参照サイト】Melibio
【参照サイト】Bee-Free MeliBio Honey Without Bees
【参照サイト】Exclusive: We Tasted the World’s First Real Honey Made Without Bees From MeliBio and We Couldn’t Taste the Difference
【参照サイト】Definition of veganism
【参照サイト】HONEY INDUSTRY FACTS

table source 編集部
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