
世界中で飢餓や貧困が深刻化している一方で、まだ食べられるにもかかわらず廃棄される食品ロスが多いのが現状だ。
世界自然保護基金(WWF)とイギリスの小売り大手テスコが2021年7月に発表した「Driven to Waste」によると、全世界で発生している食品ロスは25億トンに上る。そのうち半分近い12億トンは、農場から生じていると報告している。
しかし、日本ではほとんどの場合で、食品ロスの原因として挙げられるのは「小売りや外食などの事業系」と「消費者による家庭系」の2種類だ。実際に、日本の農林水産省と環境省は2017年度の食品ロス量を年間約600万トンと推計しているが、この数字に農業などの一次産業で発生する分は含まれていないという。
ただ、農家が安定した取引を維持するためには、自然災害のリスクを考慮して必要以上に生産せざるを得ない一面がある。余剰な収穫物や規格外の農作物がそのまま廃棄されてしまう状況を改善しなければ、今後も食品ロスは増加していくだろう。
そもそも食品ロスは食糧危機だけでなく、気候変動にも大きな影響を及ぼすと考えられている。つまり持続可能な社会の実現には、生産段階における食品ロスへの対策が一層求められるのではないか。
そうしたなか、イギリス政府は農場から出る食品廃棄物を飢餓に苦しむ人々に再分配するため、新たに1500万ポンド(日本円で約29億円)にものぼる基金「Farm Gate Food Waste Fund」を設立した。
Farm Gate Food Waste Fundは、イングランドの食品再分配非営利団体に対して助成金を2万ポンドから支給する。これにより農場レベルで、特にクリスマスの時期に大量発生する食品廃棄物をホームレスシェルターやフードバンク、慈善団体に届けてロス削減につなげるのが狙いだ。
イギリスでは毎年約30万トンの食用食品が農場から出荷される前に廃棄されるか、家畜の飼料に転換されている。一方で、イギリス人の約11%が飢餓状態にあるという。そこで基金では、6000万食分に相当する約2万7000トンが無駄になるのを防ぐと同時に、食糧を必要としている人々に食料を供給することを目指している。
また、農場から食料を集めて再配布するのにリソースが不足している慈善団体も少なくない。新しい基金は、こうした問題の解決策としても有効といえる。例えば、かさばる食品を小包に加工する新しい機器や、寄付者と慈善団体がより緊密に連携できる技術の購入費用に充てることが可能だ。さらにITや食品安全に関するスキルを向上させるべく、スタッフの研修にも注力できる。
「食品ロス」というと仕入れた食材や食べ残しに焦点が当たり、一次産業からのロスは見落とされがちだったのではないだろうか。
今回のイギリス政府の取り組みは、一次産業で破棄されてしまっていた食品の救出と、より多くの人々やコミュニティ支援につながると同時に、食品廃棄物が気候変動に及ぼす環境負荷を軽減できる、三方よしの事例だといえるだろう。
【参照サイト】GOV.UK:£15 million to help charities get spare produce to those in need
【参照サイト】Driven to Waste:GLOBAL FOOD LOSS ON FARMS REPORT SUMMRY
【参照サイト】農林水産省:食品ロスの現状を知る
【参照サイト】朝日新聞:「本当は2倍?」世界の食品ロス 実態と解決策とは 井出留美の「食品ロスの処方箋」【2】
【参照サイト】UK Announces £15M Fund to Distribute Surplus Food from Farms & Tackle Waste