近年、世界各地の海では「海の砂漠化」とも称される「磯焼け」現象が深刻化している。磯焼けとは、昆布などの海藻が群生する藻場が著しく衰退または消失し、海底の岩礁が露出してしまう現象のこと。
その原因のひとつに挙げられるのが、ウニによる食害だ。地球温暖化の影響で海水温が上昇するのに伴い、ウニが増殖。“休まず食べ続ける”という習性から、主な餌である昆布だけでなくその他の海藻も食い荒らし、結果的に藻場の生態系を破壊している。
そもそも藻場は、魚介類を含め多くの生物が生育するのに適した環境であると同時に、人間にとっては沿岸の一次生産を支える場だ。しかし、磯焼けが発生した海域では水産資源が十分に育たなくなり、漁獲量が減少して水産業に大きな打撃を与えかねない。さらに、荒廃した藻場の回復には長い年月を要することが明らかになっており、磯焼けへの対策は急務だといえるだろう。

日本の瀬戸内海においても、磯焼けの原因となるムラサキウニによる磯焼けが深刻化している。こうした課題の解決策として、2023年11月に香川県を中心に和食店を展開する「株式会社遊食房屋」の細川明宏氏と香川県立多度津高校海洋生産科の大坂吉毅教諭が「海と食の両方を循環させる」アイデアを発案。
讃岐うどんの製造過程で生じる“ゆでこぼし”や“余剰うどん”といった廃材をムラサキウニの養殖に再利用し、商品化を目指す共創プロジェクトを立ち上げた。

左:陸上養殖えさやり比較実験過程の様子、右:うどんを食べるウニの様子
2024年4月より、多度津高校と遊食房屋の共同による陸上養殖実験がスタート。庵治漁業協同組合の協力を得て、磯焼け防止のために駆除されたムラサキウニを飼育用個体として活用することとなった。実験では、多度津高校の生徒がウニの給餌管理を担当。うどんの他にもイリコや昆布など様々な材料を使って比較実験を重ね、最終的に廃棄うどんを冷凍保存して餌とする独自の手法を確立した。
今回のプロジェクトでは香川県の水産課や大学とも連携しており、2024年11月には味や品質の実験を実施。ウニの成長速度・色味・甘みなど、商品化に向けてデータを蓄積していった。
その後、2025年4月に株式会社遊食房屋が設立した「讃岐うどん雲丹LaboⓇ」にて、養殖技術・品質基準の確立やメニュー開発などが進められている。施設が多度津高校の栽培漁業実習場から徒歩2〜3分の距離にあることから、日常的に共同研究・教育の場としても機能しているという。

左:讃岐うどん雲丹Labo(養殖場)、右:「讃岐うどん雲丹」お刺身 1,650円(税込)
こうして誕生した香川発のサステナブルフード「讃岐うどん雲丹」は、白くクリーミーな味わいで、従来の海藻育ちのウニよりも早く成長するところが特徴。本来廃棄されるはずの讃岐うどんと駆除対象のムラサキウニを組み合わせて活用することで、磯焼け現象から藻場を保護するのはもちろん、食品ロス削減による資源循環にも貢献している。
多度津高校が主体として行なったこの「讃岐うどん雲丹プロジェクト」は環境・教育・経済の3側面から高く評価され、2025年には「地球環境大賞 奨励賞」や「かがわ食品ロス削減大賞 環境森林部長賞」も受賞した。
2025年10月20日には、株式会社遊食房屋が運営する「遊食房屋」丸亀店にて1日限定10食で「讃岐うどん雲丹お刺身」の提供が始まった。今後、年内に取り扱い店舗を拡大していきたいとしている。続く2026年夏ごろには養殖工場を移設し、香川県市場での卸売りを開始する予定。さらに2027年には、首都圏を主とした築地・豊洲での全国販売やふるさと納税での販売を計画しているという。
磯焼け対策としてただウニを駆除するのではなく食材として再利用できるようになれば、貴重な漁業資源を無駄にせずに済む。加えて食品ロスを活用することが、持続可能な水産業の実現にもつながるだろう。「讃岐うどん雲丹」のように、地域性に特化したサステナブルフードの未来に期待したい。
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【参照サイト】水産庁 第3版 磯焼け対策ガイドライン
【参照サイト】「讃岐うどんの廃材で海の再生」香川の海を循環させる新しい食のかたち・多度津高校 海洋生産科との共同開発プロジェクト『讃岐うどん雲丹』を2025年10月20日(月)より提供開始




















































