
世界中で拡大傾向にある食料需要に対し、持続可能な供給体制を構築することが重要だ。実際に、農林水産省のデータによると世界の食料需要量は2050年には約58億トンとなる見通しで、これは2010年比で1.7倍に上るという。
一方で、単純に生産流通の量を増やすだけでは、かえって自然破壊や過剰労働、廃棄物量の増加などさまざまな社会問題を悪化させかねない。
こうしたリスクを回避するサステナブルな手段として、「フードテック」が注目を集めている。フードテックとは生産から加工、流通、消費などにつながる食分野の新しい技術及びその技術を活用したビジネスモデルのこと。フードテックの開拓が進めば、環境負荷を軽減しながら健康志向や動物福祉といった多様な食のニーズに対応できる幅も広がるだろう。
そうしたなか、アメリカ・シアトル発のスタートアップ企業「Tomorrow」がフードテックを通じて冷蔵庫に革命を起こそうとしている。
シアトルを拠点にAI搭載のセールス実行プラットフォームを提供する「Outreach」の共同設立者であるAndrew Kinzer氏が立ち上げた同社は、特許出願中の人工知能を活用した技術を採用。これにより食品の腐敗を止め、従来と比べて鮮度が最大3倍も長持ちする冷蔵庫を2025年夏に発売する予定だ。
Tomorrowは、農産物が早期に老化してしまう主な原因のひとつとして、水分の損失に着目。従来のバージョンとは異なる原理で空気を管理する冷却構造を導入し、農産物の水分を維持できるように設計している。同時に、冷蔵庫に搭載されたコンピュータービジョンシステムが各部屋に入っている食材を認識し、そのデータに基づいて内部の環境を最適化。農産物の消費期限を最大限まで延ばし、フードロスを削減することに注力している。
また、Tomorrowの冷蔵庫には食材の在庫を追跡できるカメラも付いている。食料品店にいても冷蔵庫内をリアルタイムで確認できるので、不要な食品を購入せずに済むだろう。さらに、在庫管理するソフトウェアが食品の鮮度や数量を把握し、家庭の好みに合わせた使い方を提案することも可能。こうした機能によって金銭面での節約につながるのはもちろん、買い物にかかる時間や献立を考える手間を減らせるところもメリットだ。
国内外を問わず、フードテックは新しいビジネス創出のチャンスとして期待されている。今回発表された冷蔵庫は家庭用だが、これから先、同様の性能を持った業務用の冷蔵庫が開発される可能性も高い。
飲食店が仕入れた食材を冷蔵庫で長く保存できるようになれば、フードロスを減らせるだけでなく、コストを抑えながらメニューのオリジナリティや料理の質を高められるのではないだろうか。
【参照サイト】Tomorrow
【参照サイト】農林水産省:フードテックをめぐる状況
【参照サイト】Tomorrow’s AI-Powered Fridge Cuts Food Waste & Saves You Money