カーボンニュートラルの実現に向けて、近年「水素エネルギー」に注目が集まっている。日本政府は2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を目指すことを宣言し、2021年4月には 2030年の温室効果ガス排出量を2013 年度比で 46%削減する目標を表明した。これに伴い、経済産業省は「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を掲げ、産業政策、エネルギー政策の両面から成長が期待される14の重要分野について実行計画を策定。この実行計画では、カーボンニュートラルの実現に向けた重要事項として「水素を活用したエネルギー供給」が挙げられている。
一方で、飲食店では日々多くの二酸化炭素が排出されており、なかでも近年では厨房で使われているガスや電気などのエネルギーによる二酸化炭素排出量が問題視されている。「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)」の発表によると、食品の生産、加工、流通、調理、消費に関連するすべての要素と活動をまとめたフードシステムが、CO2をはじめとする温室効果ガス排出量全体の37%を占めているという。
そうしたなか、水素の利活用コンサルティングおよび水素コンロの製造・販売を行う「株式会社H2&DX社会研究所」は、2022年12月21日、水素コンロの導入を検討している企業を対象に「水素調理試食会」を開催した。水素ガスを扱う神奈川県小田原市のガス会社「内田商事株式会社」のラボを会場に、大手食品メーカーや大手機器メーカーなど多岐にわたる業界から約20名の参加者が集い、全国ネットのテレビ局などによる取材も行われた。
水素調理とは、水素の“燃焼温度が高く無臭”という特徴を活かし、専用の調理機器「水素コンロ」を使って水素を二酸化炭素の発生なく燃焼させて食材を調理する新しい方法。水素は燃焼する際、水素(H₂)と空気中に存在する酸素(O)が結合して水(H₂O)をつくるため、燃焼部周辺の湿度が上昇する。そのため、蒸し料理のように内側の水分や脂を保つことができ、外側はカリカリに、内側はジューシーに焼き上げられるという。また、ガスや炭、薪などを用いた従来の調理手法では燃料の匂いが食材に付着するが、水素は無臭であるため、食材本来の香りを保持できる。さらに、水素は燃焼温度が高いため時短にもつながる。
こうした特性から、水素調理は「しっとりと焼き上げたいが、中までしっかり火を通す必要がある食材」や「香り高い食材」の調理に向いているという。例えば肉の場合、脂のサシが入った牛肉などレアで食する食材よりも、赤肉やジビエなど、しっかり火を通す必要がありパサつきがちな肉の調理に向いているという。
今回の試食会では、鶏肉とエリンギと食パンが提供され、水素コンロで焼き上げたものとLPガスで焼き上げたものを比較して試食が行われた。試食会に参加した当メディアを運営する「ニッコー株式会社」の担当者は、「食材本来の香りの違いについては、特にエリンギを試食した際に顕著に感じられました。食パンは、水素調理した方が中がしっとりしていました。テレビ局などの取材が入っていたこともあり、会場はにぎやかな雰囲気でした。」と話した。
株式会社H2&DX社会研究所は、今後も月に1度の頻度で水素調理試食会を開催する予定だという。同社が牽引する「水素調理レストラン」は、日経トレンディ「2023年ヒット予測ランキング100」で6位にランクインするなど、多くの注目を集めている。水素調理試食会への参加を希望する企業や飲食業従事者は、こちらのページ(外部サイト)から問い合わせが可能だ。
現時点ではまだまだ電気やガスを使った調理器が主流だが、フードシステムにおけるカーボンニュートラルの実現に向けて、水素調理のような革新的な調理法が普及するのもそう遠くはないかもしれない。まずは、今回紹介した試食会のように、実際に体験できる機会を活用してみてはいかがだろうか。
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【参照サイト】内閣府:気候変動に関する世論調査
【参照サイト】経済産業省:2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略
【参照サイト】ICPP:Climate Change and Land