重要な産業のひとつである水産養殖。現在、漁獲による水産資源量の減少が始まっているにもかかわらず、そのニーズは急速に伸びている。世界では一人当たりの食用魚介類の消費量が過去半世紀で約2倍に増加し、近年においてもそのペースは衰えることがない。
一方で、持続可能な食料供給のために必要不可欠な存在として世界中が注目しているのが水産養殖だ。海の生物多様性の保護の観点からも、年間を通した魚の安定供給、安全性の向上が求められている。
そうしたなか、「ウミトロン株式会社」は、漁業の持続可能な発展を目的に設立された、回転寿司チェーン「くら寿司」の子会社「KURA おさかなファーム」と協働し、AI・IoT技術を活用したスマート給餌機「UMITRON CELL(ウミトロンセル)」を導入したハマチのスマート養殖に日本で初めて成功。2022年に6月23日に、くら寿司の全国店舗にて「特大切り AIはまち」として期間限定販売することを発表した。
ウミトロンは水産養殖にテクノロジーを活用することで、海の持続可能な開発と魚の安全・安定供給の実現を目指すベンチャー。導入した「UMITORON CELL(ウミトロンセル)」AIは、様々な面においてコストや無駄を削減し環境負荷の低減に貢献できるスマート給餌機だ。
搭載されているAIが魚の食欲をリアルタイムで画像解析。スマートフォンから遠隔で養殖場の様子をモニタリングできることで給餌が最適化され、餌代などのコストが削減。さらに給餌のために生け簀まで毎日往復していた漁船の燃料費の削減や、作業負荷の軽減は人手不足の漁業における労働環境の改善に繋がっている。
持続可能な水産養殖を目指す上で「人手不足」「不安定な収入」「労働環境の厳しさ」は大きな課題だ。
実際に、水産庁「水産白書2020」によると、日本の漁業・養殖業の生産量は1990年の1,105万トンから2018年には422万トンと半分以下にまで減少しているという。また、水産庁「漁業就業構造等の変化」によると、少子高齢化による後継者不足などから漁業の就業人数も2013年の18.1万人から2033年には8.9万人になると予測されている。
荒れた海上での作業や労働時間の不規則性は労働環境としても厳しく、就業を希望する人が少ないという現実もあるようだ。
ウミトロンでは、過去にも同機を用いたハマチの生育試験は実施していたものの、成魚まで生育した実績はなかったという。このたびのKURA おさかなファームとの生育実証試験により、初めて生育したハマチを出荷することができ、その水揚げ量は約20トンとなった。今回の実験ではAIで解析した魚の食欲に応じて給餌することで、餌の量を従来比約1割削減することにも成功している。
またこれらの取り組みは、SDGsの目標達成にも貢献している。目標8「働きがいも経済成長も」の部分では、削減できる作業負荷を減らすことで労働環境が改善され、持続可能な水産養殖を行うことは目標14「海の豊かさを守ろう」につながっている。
今回の実証実験を踏まえ、愛媛県宇和島市の養殖事業者2社がスマート給餌機「UMITRON CELL」を導入する契約が締結された。AI・IoTによる委託養殖を本格的に進めていくとのこと。
今後もウミトロンはおさかなファームと連携しながら、さらなるハマチの生産効率アップと省力化、安定供給を目指すとしている。委託養殖したAIハマチは今後も「くら寿司」で販売予定だ。さらに同社では2024年を目処に、取り扱うハマチの約3割を、KURA おさかなファームによる委託養殖によってまかなう計画だという。
国内の水産業は減退が続いているが、最新のAI・IoT技術を味方につけることで生産効率の向上、そして水産養殖全体の発展が期待できる。また消費者にとっても、安定した魚の供給が受けられるのは喜ばしいことだ。
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【参考サイト】くら寿司の新戦略!持続可能な漁業の実現に向けた『スマート養殖』 ~AIなどを駆使した「スマート養殖」で人手不足や労働環境を改善!大手外食チェーン初「AI桜鯛」も新登場!~
【参考サイト】ウミトロン
【参考サイト】水産庁:世界の水産物需給をめぐる状況
【参考サイト】1ページでわかる|SDGsとは?