2050年には97億人に達すると予想されている世界人口。こうした人口増加に伴い、動物性タンパク質の供給源となる畜産動物や、その食料となる大量の穀物への需要が高まり、2030年頃には、タンパク質の需要と供給のバランスが崩れる「protein crisis(プロテイン クライシス:タンパク質危機)」が起こると予測されている。
こうしたタンパク質危機の解決策として、世界ではさまざまなスタートアップ企業や大手企業が、動物性タンパク質に代わる代替え食品として「昆虫食」や「プラントベース(植物性)フード」の開発を進めている。
そうしたなか、空気から作られるというユニークなタンパク質「Solein(ソレイン)」が注目を集めている。Soleinを生産するのは、「世界の食料生産に革命を起こす」をミッションとして掲げるフィンランドのフードテック企業「Solar Foods(ソーラーフーズ)」だ。2017年に創立した同社は、二酸化炭素(CO2)、水素、酸素、少量の栄養素を微生物に供給する独自のバイオプロセスによって、微生物たんぱく質であるSoleinを開発。
通常、微生物がたんぱく質を生成するために発酵する際の栄養源としては糖類などが使われるが、Soleinの生成ではCO2を使用する。天候や土地の有無に左右されず、天然資源にも依存せず、再生可能エネルギーを使用して製造するため、持続可能で環境負荷の低い食材といえる。
さらに、Soleinの成分は65~70%がたんぱく質、10~15%が食物繊維、5~8%が脂質、3~5%がミネラルで、必須アミノ酸を全て含む栄養価の高さも特長だ。
2023年6月15日には、シンガポールに本拠を置くレストラン「Fico」が、Soleinを使って作られたチョコレート ジェラートの提供を開始。
Fico のシェフパートナーであるMirko Febbrile氏はニュースリリースのなかで「今回、ユニークなジェラートを世界に紹介する最初のシェフチームになるという素晴らしい機会を得ることができました。Soleinの可能性を探るため、パスタやソース、味噌汁、デザートなど様々なメニューで実験を行いました。その結果、乳製品を使わずに、クリーミーなヴィーガンジェラートを作ることができました。Soleinは、味を損なうことなく、地球のためになる方法で、フードチェーンを再構築する機会を与えてくれます。」とコメントしている。
Soleinを手がけるSolar Foods社は、日本の大手食品企業「味の素株式会社」と戦略的提携に関する基本合意書を締結。2023年5月30日、味の素株式会社はSoleinを使用した商品開発およびシンガポールでの市場性検証を2024年度より開始することを発表している。
今の私たちにとって、最新のフードテックによる代替え食品を口にする日常はまだまだ遠い未来のことだと感じている人も多いのではないだろうか。しかし、実際にレストランでの導入や、味の素のような大手企業での活用が進むなかで、身近な存在になる日も近いかもしれない。
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