日本で発生する食品廃棄物は、年間約2,531万トン。このうち本来食べられるにも関わらず廃棄されている「食品ロス」は、約600万トンであると推計されている。

2019年5月に環境省が実施した生ごみの内訳に関する調査によれば、廃棄される生ごみのうちの71.7%が調理くずであったという。調理くずの大半を占めているのは、野菜や果物の皮や芯などの“捨てられがちであるが、実以上に高い栄養価を持つ部分”だ。世界的な食糧不足や食品ロスが問題視される社会のなかで、この現状は看過できない事実ではないだろうか。

そうしたなか、2022年6月30日、フードテックベンチャーのASTRA FOOD PLAN 株式会社は、しいたけ生産を行う有限会社 妙義ナバファームに、食品残さ再生装置である「過熱蒸煎機」を導入したことを発表した。
この装置の導入により、妙義ナバファームで発生していた、生で出荷できない余剰しいたけを旨み調味料へアップサイクルすることに成功したという。

過熱蒸煎機は、食品の風味の劣化と酸化、栄養価の減少を抑えながら、乾燥と殺菌を同時に行うことが可能な装置だ。これまで妙義ナバファームでは、年間約100トン発生する余剰しいたけを干ししいたけに加工していたという。しかし、干ししいたけの生産には、灯油を燃料とする温風乾燥装置を使用し、24時間かけて乾燥させることから非常に多くの燃料を消費する。また冬季は外気温度が低く熱効率が下がるため、夏季に比べてエネルギーコストは2倍となり、CO2排出量も増えることから生産者にも環境にも大きな負担となっていた。

一方で、今回導入された過熱蒸煎機は、ガスを燃料とする。ガスは、灯油(石油)に比べて燃焼時のCO2排出量が少ないエネルギーであるため、環境に優しい。しいたけパウダーの製造にかかる全体のコストも約1/2に減少したという。

また、装置の導入により、余剰しいたけに加えて、残さとして廃棄されていたしいたけの”柄(え)”の部分の有効利用が可能となったという。しいたけの柄は、食感が硬いことから取り除かれることが多いが、”カサ”の部分よりも栄養価が高く、旨み成分も多く含まれる。しいたけパウダーの旨み成分の量は従来の干ししいたけに比べて、約9倍に増加しているという。

しいたけの旨み成分であるグアニル酸は、昆布のグルタミン酸、かつお節のイノシン酸に並ぶ三大アミノ酸のひとつだ。グアニル酸は、乾燥状態の干ししいたけにはほとんど含まれず、冷水に数時間浸すことで増えるという特徴がある。そのため、干ししいたけで出汁をとるためには水戻しのための時間が必要だった。しかし、しいたけパウダーは従来の干ししいたけよりも多くの旨み成分を含むため、水で戻す必要がなく、そのまま振りかけたり、即席出汁として使ったりすることができるという。

食材の栄養を余すところなく食すことは、食品ロス削減や食糧問題の解決にも繋がる。飲食店におけるサステナビリティへの取り組みとして、こうした新たな調味料を活用することから始めてみるのはいかがだろうか。

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