2022年11月中に全世界の人口が80億人に到達する、という国連の報告を目にした方も多いだろう。2050年には97億人に達すると予想されている。こうした人口増加に伴い、動物性タンパク質の供給源となる畜産動物や、その食料となる大量の穀物も必要となるため、2030年頃には、タンパク質の受容と供給のバランスが崩れる「protein crisis(タンパク質危機)」が起こると予測されている。
タンパク質危機の解決策として、スタートアップ企業や大手企業の植物性食品業界への参入が相次ぐ中、脚光を浴びているのが微細藻類だ。植物プランクトンとも呼ばれる微細藻類は、持続可能な社会を目指すための鍵とも言われ、畜産動物を屠殺する必要もなく、環境にも優しい新たな食品分野として期待が集まっている。
その微細藻類タンパク質の研究と製品開発の最前線にいる2社、「Sophie’s Bionutrients」と「NewFish」が2022年9月に提携することを発表した。
Sophie’s Bionutrientsは、シンガポールとオランダで事業展開するスタートアップだ。同社は、2021年に世界初の微細藻類から作られた100% 植物由来の代替タンパク質パウダーを開発。この代替タンパク質パウダーは、乳製品やその他の新しい食品の原材料として活用でき、微細藻類の他にはビール醸造所から出る穀物の粕と豆腐メーカー出るおから、製糖工場から出る糖蜜を原材料としてアップサイクルして作られている。
同社は代替タンパク質パウダーをもとに、2021年5月には世界初の微細藻類由来の代替ミルクを開発。11月にはシンガポールの「Ingredion Idea Labsイノベーションセンター」と共同で微細藻類由来の代替チェダーチーズの開発にも成功した。今後は、持続可能な植物性の肉や魚介類に代わる代替タンパク質、ヨーグルトなどのさまざまな乳製品の開発に取り組む予定だという。
一方、NewFishは、微細藻類由来の魚介やタンパク質の発酵、生産、研究開発、製造等を専門とし、海洋科学を牽引する機関「Cawthron Institute」や、ニュージーランドの工学機関等とも密接に連携している。今後、両社は他の研究機関などの支援を受けながら、微細藻類株の入手や生産能力の拡大などの課題を克服。手頃な価格での微細藻類食品を提供できるよう協力し、新たな微細藻類由来の食品開発に取り組んでいくという。
消費者の健康意識の高まりやライフスタイルの変化などにより、成長を続ける代替食品市場。情報通信事業を展開する「株式会社グローバルインフォメーション」の調査によると、乳製品代替品の市場規模は、2020年の226億米ドルから、2026年には406億米ドルに達すると予測されている。
海に生息する藻類であるワカメや昆布などの海藻は日本では馴染み深い食材だが、アジア諸国以外の多くの国ではこれまで食材とみなされておらず、海岸に漂う「ゴミ」と捉える地域もあった。しかし近年では、2021年6月にアメリカ ニューヨークで昆布の養殖が合法となるなど、サステナブルなスーパーフードとして海藻に注目が集まっており、さまざまなフードテック企業が海藻を使った食材の開発を推進している。増加を続ける世界人口と食料不足に対応するため、微細藻類による持続可能な食品が食料供給にどう貢献していくかが期待される。
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【参照サイト】CISION PR Newswire, Food Pioneers Sophie’s Bionutrients And NewFish Join Forces To Develop Dairy Alternatives From Microalgae
【参照サイト】United Nations, Department of Economic and Social Affairs, World Population Prospects 2022
【参照サイト】一般財団法人食品分析開発センターSUNATEC、これからの水産物の供給における養殖業の役割と課題
【参照サイト】株式会社グローバルインフォメーション、乳製品代替品の市場規模、2026年に406億米ドル到達予測
【参照サイト】NewFish ホームページ
【参照サイト】Sophie’s Nutrients ホームページ
【参照サイト】Microalgae Milk Pioneer Sophie’s Bionutrients Moves to Europe’s Alt-protein Hotspot