
スーパーマーケットのような小売業では、本来おいしく食べられるにもかかわらず見た目の悪さから売れ残ってしまった農産物をやむなく廃棄しているケースも多いのではないだろうか。こうした食品ロスを削減するには、いかに消費者の購入意欲を刺激するかが重要となる。
そこで、イギリスのBath大学、ドイツのAachen工科大学とGoethe大学によるユニークな共同研究に注目したい。
この研究では、主に形の変形や鮮度の低下など客観的な欠陥に焦点を当て、見た目の悪い不完全な食品に対する消費者の受容を高める方法を検証している。そして、不完全な食品の評価と選択にプラスの影響を与えるには、人間の特徴を当てはめて“擬人化”することが有効だと報告している。
今回の研究では、ドイツ国内で3,800以上の店舗を展開するスーパーマーケットチェーン「Rewe」で現地調査を実施。擬人化する際の感情表現のなかでも「幸せ」と「悲しい」のどちらがより効果的であるのかを検証している。
検証では、見た目の悪い不完全な食品(房から取れてバラバラになってしまった1本だけのバナナ)の入った箱を3つ作り、それぞれに異なる看板を設置して購買行動を観察した。
1つ目の「Control(コントロール)」の看板には、「こちらも買ってもらいたいバナナ1本です」という感情表現を含まない文章とイラストを掲載。2つ目の「sad(悲しい)」看板では、擬人化されたバナナが悲しそうに「私たちは悲しい独り身です。私たちも買ってもらいたいのです」とメッセージを発している。3つ目の「happy(幸せ)」の看板は、笑顔のバナナと前向きなメッセージが描かれたものだ。
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1つ目の「Control(コントロール)」の看板には、「こちらも買ってもらいたいバナナ1本です」という感情表現を含まない文章とイラストを掲載。2つ目の「sad(悲しい)」看板では、擬人化されたバナナが悲しそうに「私たちは悲しい独り身です。私たちも買ってもらいたいのです」とメッセージを発している。3つ目の「happy(幸せ)」の看板は、笑顔のバナナと前向きなメッセージが描かれたものだ。
調査の結果、感情表現を含まない「コントロール」の条件下ではバナナの販売数が1時間あたり2.02本だったのに対し、「悲しいバナナ」の看板だと58%増えて3.19本が売れた。なお「幸せなバナナ」の看板では1時間あたり2.13本と、5.8%の売上増に留まっている。
つまり、擬人化して感情を表現する場合、より悲しげなメッセージの方が買い物客に対して50%近くも効果的であることが証明された。
さらに現地調査の手法を採用し、745人を対象にオンライン調査を実施。こちらの実験結果でも、幸せな感情より悲しい感情を伝えられた時の方が、1本のバナナを選択する消費者が多かったという。こうした傾向はトマトを題材にしたオンライン調査でも見られたことから、バナナに限らず他の農産物にも同じことが言えそうだ。
ただ、研究者らがバナナを値下げした場合の影響について調査したところ、「悲しいバナナ」の看板が値下げより高い効果をもたらすことはないという結論に至った。
しかし、商品の価格を容易には下げられない、または下げたくない小売業者もいるだろう。そうした場合に、「悲しい感情を伴う擬人化」を段階的に取り入れるのもひとつの手段だ。まず感情的な看板で単一の果物や野菜の売り上げを伸ばし、状況に応じて値下げに切り替える。お店にとっては売れ残りを防いで一定の利益を確保できるうえに、食品廃棄物の削減にも貢献することができる。
農林水産省の推計によると、日本の食品ロス量は令和4年度で472万トンとなり、前年度より51万トン減少した。しかし、それでもなお大量の食品ロスが発生しているのが現状だ。注意喚起や啓蒙活動だけで一人ひとりの意識を変えるのは容易ではない。食品ロス削減をさらに加速させるには、今回の「悲しいバナナ」の事例のように、消費者が思わず手に取りたくなるようなシーンを作ることが鍵になりそうだ。
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【参照サイト】Anthropomorphic Sad Expressions Reduce Waste of “Single” Imperfect Food – Gerecht – Psychology & Marketing
【参照サイト】Labelling Single Bananas as ‘Sad’ Can Help Retailers Cut Food Waste
【参照サイト】令和4年度の事業系食品ロス量が削減目標を達成!:農林水産省