近年、建築廃棄物をめぐる問題が深刻化している。2019年度の環境省の統計によると日本の産業廃棄物の排出量は約3.8億万トンであり、そのうち建設業からの排出は約7,614万トンと2割を占めている。国際的なイベントの開催時など、会場やホテルなどさまざまな施設が建設される。イベントを誘致することで、高い経済波及効果が期待できるが、建てては壊しを繰り返していては、サーキュラーエコノミーとはいえない。
そうしたなか、既にある建物を有効利用することで、環境負荷軽減を実現したのが2021年1月に開業した「ローズウッド サンパウロ」だ。
ローズウッド サンパウロは、縦型庭園タワー内には客室160室とスイートルーム100室を備えるラグジュアリーホテルだ。ブラジル・サンパウロ中心部に位置しており、20世紀初頭の複合建築シダーデ マタラッツォ(Cidade Matarazzo)の敷地内に、都会のオアシスとして建設された。シダーデ マタラッツォと同時期に建設された産婦人科「フィロメーナ・マタラッツォ伯爵夫人産婦人科(Condessa Filomena Matarazzo Maternity)」の建築を完全に再生しており、サステナブルなホテルとしても話題を呼んでいる。
シダーデ マタラッツォはブラジル最大のアップサイクルプロジェクトであり、自然とラグジュアリーが連携するライフスタイル複合建築だ。ローズウッド サンパウロの開発にあたっては、サステナビリティによるブラジルの自然環境保護を誓っており、現地コミュニティと環境に対してポジティブな影響を与えることがホテルの価値とゴールとしている。また、建物はカーボンフットプリントが可能な限り少なくなる設計になっている。そのほかにも生物多様性プログラム、太陽エネルギー、水再利用技術、100%オーガニックのスパなどサステナブルな取り組みが実践されている。
日本でも「ザ シェア ホテルズ」が、全国各地の老朽化したオフィスビルなどをリノベーションし、ホテルとして10軒近く蘇らせている。その土地に根付いた建物は、地域ならではの特色が出せる上に地元住民からの愛着も深い。ホテルのサーキュラーエコノミーを実現するための選択肢として、使い道がなく眠っていた建物に目を向けることも視野に入れてみてはどうだろうか。