飲食店の持ち帰り容器や包装材、ホテルのアメニティなど、身の回りには使い捨てプラスチックが溢れている。2019年の使い捨てプラスチックの廃棄量は、世界全体で約1億3000万トンにのぼった。そのうち、日本の年間総廃棄量は431万トンを占めており、世界第4位の多さだという。
近年では使い捨てプラスチックが海へと流れ込むことで、海洋環境や生態系に深刻な影響が及ぶことが広く知られており、世界中で脱プラスチックの意識が高まっている。例えば、飲食店やカフェで、コーヒー用のプラスチック製カップを紙製に置き換えるのもひとつの対策だ。
しかし2023年8月、紙コップがプラスチックのカップと同様に有害である可能性を指摘する研究結果が、環境科学分野の国際的な学術誌「Environmental Pollution」で発表された。
飲み物と接する紙カップの内側には、防水層を作るためにプラスチック素材を薄くコーティングしているケースが多い。
今回の発表によると、スウェーデンにあるヨーテボリ大学のBethanie Carney Almroth氏を中心とするチームは、紙コップに使用されているプラスチック素材に注目。
プラスチック製と紙製のカップを、それぞれ水や堆積物のある場所に最大4週間置き、その浸出物を含む水槽で水生生物を飼育した。その結果、どちらの浸出物を使用した環境であっても、水生生物の発育に遅れがみられたという。また、カップを浸出する時間が長いほど、生物への影響も大きくなる傾向だった。
紙カップから溶け出した物質について化学分析は行われなかったが、複数の化学物質が原因ではないかと推測されている。
実際に、使い捨てのコーヒーカップは合成化学物質と素材を組み合わせて作られる。たとえ紙コップのコーティングに植物由来の素材を使用しているメーカーでも、製造過程で化学物質を加える場合もある。こうした点から、プラスチックでコーティングされた紙コップは、必ずしもプラスチックカップより人間や環境にやさしいとは言い切れないだろう。
他にも、紙コップの抱える課題として、紙素材とプラスチックのコーティング部分を分離するのが難しいため、リサイクルを促進できていないといった現状がある。また、使い捨ての紙コップは持ち帰った後に廃棄する人も多く、回収のハードルも高いだろう。結果的に、ブラスチック製カップから紙コップへ切り替えても、廃棄物削減にはつながらない可能性がある。
飲食店でプラスチック製カップを別の素材のものに切り替える場合、本当に環境への負荷が低いものなのか、多角的な視点を持って吟味する必要がありそうだ。
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【参照サイト】 Single-use take-away cups of paper are as toxic to aquatic midge larvae as plastic cups – ScienceDirect
【参照サイト】 Single-Use Paper Cups for Coffee Can Be as Toxic as Plastic Cups, Finds New Study
【参照サイト】 「使い捨てプラスチック」の世界ランキング公表 | 一般社団法人日本エシカル推進協議会(JEI)