
ポテトチップスやパンなどの加工食品、洗剤、石けん、化粧品など、日本のスーパーに並ぶ商品の約半分に含まれ、毎日使用する身近な植物油「パーム油」。しかし、食品表示ラベルには植物油、植物油脂、ショートニング、マーガリン、グリセリン、界面活性剤、などと表記されるため、パーム油に由来する原材料を採っていると気付かないことも少なくない。
WWF(世界自然保護基金)によると、パーム油は汎用性が高く比較的安価なことから、毎年世界で7,000万トンもの量が生産されている。その生産の90%を担う3国が、インドネシア、マレーシア、タイだ。今後もさらなる需要の増加が予想されるなか、パーム油の生産に伴う開発は、東南アジア全域の熱帯林破壊や気候変動への影響、絶滅危惧種のオランウータンやゾウの減少、農園での強制労働など、深刻な問題を抱えている。
環境や地域社会に配慮した持続可能なパーム油の生産を広げるため、2004年には国際的組織「RSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil)」も設立された。日本の洗剤や石けん業界、小売業界や食品企業でも、RSPO認証油の導入方針策定を開始している。
一方、パーム油の代替品開発を進めているのが、アメリカのバイオテック企業「C16 Biosciences」だ。同社は、イースト菌の発酵を使用したバイオテクノロジーで製品開発を行うスタートアップ。革新的な技術を活用して気候変動に対処する企業への投資を目的にビル・ゲイツが創設したファンド「Breakthrough Energy Ventures」から、2020年に2,000万ドル(約23億円)の支援を受けたことでも話題となった。
ワインやビール、チーズの製造過程と同様に、微生物を発酵することで代替パーム油を生産する「C16 Biosciences」。工業規模である5万リットルの代替パーム油の発酵に成功したことを機に、代替パーム油を使用した製品を2023年に世界で初めて上市すると、2022年11月3日に発表した。同社が今回製品化したのは、代替パーム油由来の化粧品プロダクトライン「Palmless™(パームレス)」。共同創業者兼CEOのシャラ・ティックは、「Palmlessの立ち上げが、代替パーム油が現実になる大きな一歩となる。」と述べている。
国際マーケットリサーチ会社「Grand View Research」によると、2021年の世界のパーム油の市場規模は637億ドルで、2030年までの年平均成長率は5.1%にのぼると予想される。日常的にパーム油を使用している飲食店も多いなか、背景にあるさまざまな問題についても、正しく理解しておく必要があるだろう。
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