近年、培養肉の研究が世界中で進められている。培養肉とは、鶏や牛等の家畜の細胞を、体外で組織培養することによって得られた肉のこと。家畜を飼育するのに比べ、地球環境に与える負荷が低く、広い土地の必要がないなどの利点があるため、食肉の新たな選択肢のひとつとして注目されている。
日本では、日清食品ホールディングス株式会社と東京大学大学院情報理工学系研究科の共同研究グループが、2017年から培養ステーキ肉の実用化を目指した研究を開始。2022年3月31日に、産学連携の培養肉研究において、日本初の食べられる培養肉の作製に成功したことを発表した。
同研究グループは、食用可能な素材である食用血清と食用血漿(けっしょう)ゲルを独自に開発。食用血清は、細胞を育てるために必要な栄養成分である、培養液として使用される。また、食用血漿ゲルは、培養ステーキ肉を作製するために必要な、細胞の足場材料となる。こうした素材を使用することで、十分な栄養成分の供給や培養ステーキ肉の構築を、細胞の生育に適した条件で培養することが可能になったという。
2022年3月29日には発表に先立って、研究関係者で試食会が行われた。これまでの機器による分析に加え、人による味、香り、食感等に関する評価も収集できることで、美味しさに関する研究開発にも大きく貢献しているという。
2019年には、同研究グループが、全国2,000名を対象にした培養肉に関する大規模意識調査を実施した。そこでは、「培養肉は世界の食糧危機を解決する可能性がある」という意見に、55%の人が賛成と回答。一方で、「培養肉を試しに食べてみたい」と考える回答者は、わずか30%弱にとどまったという。
今までにない手法で作製された食品であり、日本で受け入れられていくのかはまだ未知数の培養肉。実用化に向けた肉本来の味や食感に近づく研究の進展に伴い、今後人々の関心や需要が高まることを期待したい。
【関連記事】
【参照サイト】 日本初!「食べられる培養肉」の作製に成功 肉本来の味や食感を持つ「培養ステーキ肉」の実用化に向けて前進
【参照サイト】 肉本来の食感を持つ「培養ステーキ肉」実用化を目指す研究がJST「未来社会創造事業」の新規本格研究課題に決定
【参照サイト】 「培養肉」の受容性の確認と受容性向上の施策検討を目的とした日本初の「培養肉に関する大規模意識調査」を実施