
まだ食べられるにもかかわらずさまざまな理由で廃棄されてしまう食品は多く、「食品ロス」として問題視されている。
実際に、国際連合食糧農業機関(FAO)の報告によると、世界では食料生産量の3分の1に当たる約13億トンの食料が毎年廃棄されているという。日本も例外ではなく、環境省が2021年に出した統計では、年間523万トンもの食品ロスが生じていることが明らかになっている。
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食品ロスを放置すれば飢餓や貧困がますます深刻化し、食糧危機にも拍車がかかる。また、廃棄物の処理によって、環境への負荷も増大しかねない。今や食品ロスの削減は世界共通の課題であり、2015年9月に国連で採択されたSDGsのターゲットの1つにも、「2030年までに世界全体の1人当たりの食料の廃棄を半減させること」が盛り込まれている。
とりわけ飲食店では、調理くずや食べ残しなどの食品ロスが発生しやすい。どうしても廃棄せざるを得ない食品は、リサイクルしてロスからの転換を図ることも、ひとつの手段ではないか。例えば海外では、リサイクルによる食品ロス対策として、生ゴミの堆肥化が進められている。
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そのモデルケースといえるのが、アメリカのニューヨーク市が実践した取り組みだ。2024年5月、ニューヨーク市は、公立学校におけるすべてのカフェテリアで堆肥化を導入したと発表した。
過去10年間で、ニューヨーク市の公立学校で堆肥化を行ったのは半分以下だった。ニューヨーク市によると、全米最大の学区であるニューヨーク市立学校区は年間3,600トン以上のゴミを排出しており、その47%以上が食品廃棄物と食品で汚れた紙だという。
すべての公立学校において堆肥化が実現すれば、膨大な量のリサイクル可能な材料が無駄に捨てられてしまう事態を防げるだろう。
そうしたなか、2年前にニューヨークのエリック・アダムス市長を筆頭に市政レベルで取り組みを推進した結果、予定より3か月早く堆肥化の導入が完了。
市長は今回の取り組みについて、「堆肥化は三方良しです。ごみを埋め立て地に捨てず、大気から温室効果ガスを排出せず、地域からネズミを遠ざけます」とそのメリットを語っている。
では、公立学校の堆肥化とは、具体的にどのようなシステムなのだろうか。
まずは廃棄物をきちんと分別する必要がある。そこで、市は公立学校のカフェテリアに5種類の容器を設置。液体を捨てる容器のほか、食品廃棄物や堆肥化可能なトレイと銀食器、食品で汚れた紙を入れる容器、牛乳パックや硬質プラスチック、金属を入れる容器という内訳だ。薄いプラスチックフィルムのような、リサイクルも堆肥化もできない残りのゴミを捨てる容器も用意されている。
容器に貯まった廃棄物は、管理スタッフが回収。ネズミの侵入を防ぐために密閉されたゴミ箱に捨てる。このゴミ箱は学校外の道路脇に置かれており、平日の夕方に収集される仕組みだ。
また、各学校では、管理スタッフや教職員、生徒が堆肥の正しい分別方法とその重要性を学ぶための研修を受けている。さらに、多くの学校が生徒主導の「グリーンチーム」を設立。同級生に廃棄物の分別を促す役割を生徒自身に任せることで、一人ひとりの環境意識がより高まる仕組みだ。
ニューヨーク市の公立学校では、2022年2月よりカフェテリアでヴィーガンフードを提供する「ヴィーガン・フライデー」を開始しており、食を通じたサステナブルな教育への意欲がうかがえる。
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日本でも児童・生徒1人当たり年間約 17.2kgの食品廃棄物が発生していることから、近年では学校給食からの食品ロス削減策に力を入れている自治体も増えている。
消費者庁の資料によると、群馬県高崎市では給食センターにおける取組として、 給食作りに携わる人々への座学の実施や過剰除去の少ない食材のカット方法の導入、野菜の皮を残したままの調理、廃棄予定の野菜の活用などに取り組んだところ、食品ロス・食品廃棄物を前年比で367.2kgも減らすことができたという。
千葉県市川市では、モデル校2校の全学年において、動画や冊子を用いた15分間の座学と児童自身の目標の考案や、「食べきりの歌」の校内放送を実施。以前に比べて食べ残しが減ったと思うかどうかを児童に聞いたアンケートでは、低学年の48.3%、高学年の39.0%が「食べ残しが減った」と回答している。
今後国内外でこうした事例が増えることで、消費者の食品ロスへの意識も高まっていくだろう。飲食店でも、食品廃棄物の削減に取り組み、それでも出てしまう生ゴミを堆肥化するという動きが広まっている。こうした取り組みを実施し発信することで、サステナブルな経営を推進するとともに、消費者の関心にアプローチしてはどうだろうか。
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【参照サイト】 Mayor Adams Completes Rollout of Composting in all New York City Public Schools | City of New York
【参照サイト】 NYC Public Schools brings composting to every cafeteria
【参照サイト】 消費者庁:食品ロス削減関係参考資料