近年、将来的な食糧不足に対応する新たな食材として関心が高まる昆虫食。2013年に国際連合食糧農業機関(FAO)が「食用昆虫・食料と飼料安全保障の将来展望」と題した報告書を発表したことで、昆虫食の栄養価の高さや、食糧危機対策にも貢献するサステナブルな側面に注目が集まった。

2020年12月に株式会社 日本能率協会総合研究所が発表した、世界の昆虫食市場に関する推計では、2019年には70億円であった昆虫食市場は今後急速に拡大し、2025年には1,000億円となると推計されている。

日本でも、2022年の7月には日本航空株式会社(JAL)の子会社で、国際線中長距離格安航空サ―ビスを提供する「株式会社ZIPAIR Tokyo」が日本で初となる機内食への食用コオロギの導入開始を発表し、話題になった。

そうしたなか、信濃毎日新聞社と太田哲雄氏は、昆虫食の意義を発信する「昆虫みらいプロジェクト」の一環として、アンテナショップ「COCON MIRAI(古今未来/ココンミライ)」を2022年7月23日、長野県北佐久郡軽井沢町に開設した。

迫りくる食糧危機や水不足の時代において、古くから信州で親しまれてきた「昆虫食」が問題解決のカギになると考えた信濃毎日新聞社。昆虫食自体に抵抗感を持つ人も多いなかで、信州発の昆虫食を国内外に届けるため、”アマゾンの料理人”太田哲雄シェフと協業。「体に良くておいしいから選ばれる」。そうした昆虫食の新しいスタンダードを目指して、同プロジェクトを始動させた。

料理人を志し、19歳で伝手もなくイタリアに渡った太田哲雄シェフ。「世界一予約の取れないレストラン」と言われたスペイン「エル・ブジ」や、世界のベストレストラン50にも選ばれたペルー「アストリッド・イ・ガストン」などで通算10年以上の経験を積んだ。現在は軽井沢「LA CASA DI Tetsuo Ota」、「MADRE」のオーナーシェフとして信州の食材を使った料理を提供するかたわら、アマゾンカカオ普及のための幅広い活動を行なっている。主な著書には「アマゾンの料理人 世界一の“美味しい”を探して僕が行き着いた場所」(講談社)がある。

「昆虫みらいプロジェクト」の情報発信拠点として、今回新たに立ち上げられたCOCON MIRAI(古今未来/ココンミライ)。名前の由来は、今と昔を意味する「古今」と、イタリア語で「繭」を意味する「cocon」だ。古くから製糸産業で知られる信州には、生糸に欠かせない蚕をはじめイナゴや蜂の子などを食す昆虫食の文化が根付いている。信州を拠点に「未来食」としての昆虫食に挑戦する決意を込めて名付けたという。

COCON MIRAIの入場料は無料で、食糧危機や水不足の問題に立ち向かうヒーローたちの活躍を描いた絵本アニメーション「小さな救世主の物語」や、昆虫食を楽しく学べる解説パネルを観ることができる。太田シェフが考案し一つ一つ丁寧に手作りした昆虫食ブランド「PICO SALVATORE®」の昆虫食商品4種も販売される。

・AMAZON CACAO×INSECT タブレットチョコレート 蟋蟀(コオロギ) [1個2,500円]
・信州産蜂の子 フィナンシェ [1個600円]
・シルクパウダー メレンゲクッキー [1袋800円]
・カイコ シーズニング [1個1,200円]

昆虫をふんだんに使ったウクライナ風水餃子「ペリメニ」

昆虫をふんだんに使ったウクライナ風水餃子「ペリメニ」

また、COCON MIRAIと併設のレストラン「MADRE(マードレ)」では太田シェフによる信州郷土食のメニューや創作菓子、同シェフが考案した昆虫食メニューが提供される。第一弾はウクライナ風の水餃子「ペリメニ」。松澤製糸所(下諏訪町)の「はね出し生糸」を微粉末化したシルクパウダーを生地に練り込み、信州岡谷育ちのコオロギでスープの出汁を取った上、同社のカイコサナギも使った一品だという。

昆虫食というと、日本ではまだまだ受け入れ難い印象もあるかもしれない。しかし、昆虫は、タンパク質などの栄養素を豊富に含むことや、養殖に必要とされる土地や飼料が家畜などに比べ大幅に少なく環境負荷が小さいことから、人間にとって重要な食物になる可能性があると示唆されている。昆虫食を飲食店が積極的に導入していくことで、新たな食文化として少しずつ浸透させることができるのではないだろうか。

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【参照サイト】FAO: Edible insects Future prospects for food and feed security

table source 編集部
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