現代社会において、大量生産・大量消費の経済システムは廃棄物の量を増加させ、環境に悪影響を及ぼすとして問題視されている。
そこで注目を集めているのが、「アップサイクル」の考え方だ。アップサイクルは、廃棄物の素材を生かしながらデザインやアイデアによって新たな価値を与えることで、元の状態より価値を高めることを意味し、サステナブルな社会を実現する一助となる。
アップサイクルのなかでも、食品に関する「アップサイクル食品」の市場は日々拡大を続けており、2021年には約537億米ドルに到達。2022年から2029年の期間では年間約6.2%以上のペースで成長し続けると予測されている。
こうした市場は、ヨーロッパを中心に拡大しており、環境推進国と呼ばれるスイスでもさまざまな取り組みが行われている。今回は、スイス全土で600店舗以上を展開する国内最大のスーパーマーケット「Migros」の取り組みを見てみよう。
Migrosでは、2020年からプラスチック製の食器やカトラリーの販売を中止。環境に配慮した素材の商品に切り替えるなかで、2022年9月にプラスチック製のカプセルを使用しないコーヒーカプセルを発売した。
また、同社が2020年より展開するプライベートブランド「V-Love」は、プラントベースであるところが大きな特徴だ。すべての商品で、ベジタリアンおよびヴィーガン製品を識別するための国際的な登録記号V-Labelを取得。さらに、100種以上ある商品のうち、90%以上がヴィーガンに対応している。2021年11月にはプラントベースのゆで卵を独自に開発し、話題となった。
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この他にも、「V-Love」ブランドにはサステナブルかつユニークな商品が充実している。
例えば「Upcycled · Plant-based burger」は、名前の通り、アップサイクルされた植物性の代替肉だ。基本の原料は、ビールを醸造する際に出る“spent grains”、すなわち使用済みの麦芽だという。
Lenzburg(レンツブルク)にある麦芽工場では、地元の醸造用大麦から麦芽が生産されている。そして、麦芽をビールに醸造する過程で、“spent grains”と呼ばれる使用済みの麦芽が残留する。使用済みといっても、タンパク質や微量元素、酵素、ビタミン、繊維質など貴重な物質を多く含んでおり、利用価値のある素材といえるだろう。
この使用済みの麦芽は、Circular Food Solutions社が開発した技術によって“wet extrudate”に変えられる。そこに環境に優しいエンドウ豆や小麦など他の原料を加えることで、製品の原型が完成。続く工程でさまざまなジュースと調味料を加えた後、最終的なバーガーのパテに成形する。
使用済み麦芽のような植物性素材をアップサイクルすれば、廃棄物の削減だけでなく、ヴィーガンへの対応も可能だ。
近年では日本でもフードダイバーシティへの関心は高まっている。日本ハム株式会社が2023年11月に実施した意識調査によると、代替たんぱく質について知っている人のうち、プラントベースフードを「食べたい」「やや食べてみたい」と答えた人は、半数以上の57.1%にのぼるという。
アップサイクルがもたらすメリットに着目し、飲食店のメニューにサステナブルなプラントベースフードを活用することで、お店の付加価値がより高まるのではないだろうか。
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