
2024年、訪日外国人旅行者数が約3,687万人を記録し、過去最高であった2019年の3,188万人を上回った。 観光客の消費額も8.14兆円に達し、これも過去最高を更新している。
なかでも、飛騨高山を有する岐阜県では、外国人観光客が急増。観光庁の発表によると、2024年1月から10月までに県内に宿泊した外国人旅行者は、統計開始後で最も多い184万6000人を超えているという。特に8月は、全国で最も高い増加率となる前年比192%増を記録している。
こうした外国人観光客の増加などにより国内の観光市場が活発化するなか、「持続可能な観光産業」を叶えるには、観光地の環境負荷を低減し、地域文化を守りつつ住民との共生を重視することが不可欠だ。
そうしたなかで、飛騨高山の伝統的な要素を現代の視点で表現し、地域文化や工芸の保全とその魅力を発信しているのが2022年12月にオープンした「メルキュール飛騨高山」だ。メルキュールホテルは、フランスを本拠地としたアコーホテルズのミッドスケールブランドであり、現地の魅力を満喫できる質の高いブランドという位置づけ。ブランドのコンセプトにおいて、いかにローカライズするかということを求められるなかで、メルキュール飛騨高山は「飛騨高山の手仕事」を基本コンセプトとしてデザインされているという。
日本列島の中央に位置する飛騨高山は、四季折々の自然豊かな風景と、日本の原風景を思わせる古い町並みはもちろんのこと、木工をはじめ、飛騨染、飛騨春慶、山中和紙、飛騨刺し子などの伝統や技術が息づいているのも大きな魅力だ。メルキュール飛騨高山には、こうした「飛騨高山の手仕事」による伝統や技術がふんだんに盛り込まれている。
同ホテルを訪れたゲストがまず驚くのが、正面エントランスを入ってすぐのオブジェ。このオブジェには、飛騨家具のイスの廃材が使われているという。廃棄物の削減につながるのはもちろん、ユニークで洗練されたデザインを織り成している。
エントランスやラウンジスペースをはじめ、ホテルの随所で使用されている家具は、飛騨家具を代表する「曲木」の技術を駆使し、職人の手によって一つひとつ丁寧に地元で作られたものだ。既製品をストックして販売するのではなく、顧客の要望を聞いてから製作されるため、修理やメンテナンスをしながら長く使うことができる点でも、サステナブルだといえる。
こうした伝統工芸品の活用は、ホテル独自の内装を演出するだけでなく、地域経済の活性化や伝統技術の継承にも貢献する。今後は、同ホテルと地元の飛騨家具メーカーによるコラボレーションイベントとして、新作家具の期間限定展示などが予定されている。
また、客室でも飛騨染や山中和紙といった地域の伝統や文化を取り入れながら、モダンで洗練されたデザインに仕上げている。海外ゲストからも、「ウッディーで落ち着いたデザインながらも、機能的に作られた客室だ」と好評を得ているという。
さらに、こうした地域の恵みを活かし、支援する取り組みはホテル内のレストラン&バー「HOBAR(ホーバル)」でも実践されている。レストランでは、高山の盆地特有の寒暖差を生かして栽培された、甘みのあるトマト、ナス、ホウレンソウなどの旬の野菜を、契約農家から仕入れて提供。地元生産者とのつながりを大切にしながら、地域の食材をふんだんに活用している。
併設のバーでは、世界各地のワインやリキュールに加え、日本酒造りが盛んな飛騨高山ならではの地酒も豊富に取り揃えており、訪れる人々に多彩な味わいを楽しんでもらえるよう工夫されている。
その他にもメルキュール飛騨高山では、2022年の開業時より使い捨てプラスチックを排除し、環境に優しい素材のアメニティや木製カードキーを採用している。ミネラルウォーターはリサイクル可能なリターナル瓶を使用。また、エネルギー消費については前年比5%の削減を目標に掲げ、フードロス削減についても前年比10%の廃棄削減を目指している。こうした具体的な目標を設定することで、開業3年目を迎えた現在、スタッフ一人ひとりが自分から行動する文化が根付きつつあるという。
最後に、メルキュール飛騨高山の戸嶋ゼネラルマネージャーに、サステナブルな内装を通してお客さまに伝えたい想いをうかがった。「高山の人々は、森と共存し、それを大切に育んできました。私たちも、先人たちの想いを受け継ぎながら、現代の方法で環境にできることを考え、未来へとつないでいきたい。そして、この想いを訪れるゲストの皆さまにも感じていただくことが、私たちの使命だと考えています。」
戸嶋ゼネラルマネージャーの言葉からは、地域の人々、ゲスト、そしてホテルが調和し、共生する姿を思い浮かべることができた。
地域の伝統工芸を取り入れたデザインは、メルキュールブランドらしい洗練された空間を演出するだけでなく、ホテルの個性やブランド価値を高める役割も果たしている。ゲストにとっても、ホテルに居ながら地域文化に触れられる貴重な体験となるだろう。今後も、メルキュール飛騨高山の取り組みが、地域全体のエコツーリズムや文化観光の促進を後押ししていくことを期待したい。
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【参照サイト】メルキュール飛騨高山
【参照サイト】日本政府観光局:訪日外客数(2024年12月および年間推計値)
【参照サイト】観光庁:インバウンド消費動向調査2024年暦年(速報)及び10-12月期(1次速報)の結果について
【参照サイト】NHK:岐阜NEWS WEB 去年の訪日外国人旅行者 過去最多に 宿泊業界 人手不足課題