
2022年に入ったころから、さまざまな食品の値上げが加速している。特に小麦加工品や油脂類、牛肉や鮭などの輸入食品の値上げ幅が大きくなっている。
農林水産省の2021年度の資料によると、小麦の国内消費量のうち、輸入小麦の占める割合は約85%にも達している。乾燥を好み湿気に弱い小麦は、収穫期が梅雨と重なる日本での栽培に不向きな作物だ。輸入に頼らざるを得ない背景があるなか、近年ではコロナ禍による景気の後退や世界情勢の深刻化、記録的な円安などの影響を受け、安定的な供給ができないことが課題となっており、そうした課題に伴う価格高騰が外食産業全体に影を落としている。
近年では、小麦アレルギーのある人が増加傾向にあり、健康意識の高まりも相まって「グルテンフリー」という概念が広まりつつある。
そうした小麦に変わる食材として、サトウキビの搾りかす「バガス」に注目し、新たな取り組みを始めたのが、「スターリゾート株式会社」だ。

琉球イノベーティブフュージョンレストラン「Jivana」
スターリゾート株式会社は2024年4月26日、沖縄県宮古島市伊良部島にて7室限定のオーベルジュスイートヴィラ「アヤンナ宮古島」を新規オープンした。
同時に、このヴィラ内にレストラン「Jivana(ジバナ)」もオープン。同レストランは、フレンチの技法を用いて沖縄の食材をふんだんに使用したイノベーティブ料理を提供する琉球イノベーティブフュージョンレストランだ。
Jivanaでは地産地消を目指し、沖縄の食材をふんだんに使用すると同時に、沖縄県産のサトウキビの搾りかす「バガス」の活用にも取り組む。ディナーでは、「琉球イノベーティブコース」と、サトウキビの搾りかす「バガス」を使用した「バガスイノベーティブコース」の2つのフルコースを提供。コースで提供される一品一品は小麦粉の一部をバカスの粉末で代用しており、ブリオッシュ、タコス、キッシュなど様々な形でバカスを味わうことができる。

(左)バガスブリオッシュ、(右)宮古牛のバガスタコス
「バガス」は、サトウキビから、砂糖をつくるためにショ糖を圧搾した残りの繊維の部分のこと。砂糖をつくる過程では原料の25%ほどがバガスとして残るため、年間73万トンのサトウキビが生産される沖縄県では、年間約18トンのバガスが発生している。こうしたバガスはこれまで全体の89%が精糖工場のボイラー燃料として利用される他、堆肥や飼料原料、パルプ紙として二次利用される場合もあるものの、未だその全てを有効活用できておらず、沖縄県が抱える課題の一つともいわれている。
Jivanaではこのバガスを、小麦粉の代用品そして運搬による環境負荷などが少ないエシカル食品として活用。さらに、内装の左官やコンクリートにおいても建築建材としてもバガスを使用するなど、多様な価値を提案していくという。
2022年2月に大手総合旅行サイト「Expedia」が、日本を含む世界11ヵ国で各国1,000人を対象に実施した意識調査によると、全体の約90%の人が「旅行をする際、サステナブルかどうかを意識している」と回答したことが明らかになっている。今回紹介したJivanaのバガス活用は、グルテンフリーによるフードダイバーシティ(食の多様性)の推進と、廃棄物の削減に貢献できるサステナブルな取り組みだ。
バガスという、多くの人が口にしたことのない新たな食材への興味は、「持続可能な食」への課題に向き合う後押しにもなりそうだ。
【参照サイト】 琉球イノベーティブレストラン「Jivana」オープン【食料自給率が15%の小麦の代用品としてサトウキビの搾りかす「バガス」を活用】
【参照サイト】 農林水産省:令和4年度食料自給率について
【参照サイト】 農林水産省:小麦の自給率/3.小麦の国内生産と自給率
【参照サイト】 農林水産省:欧米・豪州等6か国、組織における グルテンフリー表示に係る調査報告書
【参照サイト】 農林水産省:令和4年産さとうきびの収穫面積及び収穫量
【参照サイト】 7 in 10 Consumers Avoided a Travel Destination or Transportation Option Due to Inauthentic Sustainability Commitments