世界には、飢餓や貧困によって深刻な食料危機に陥っている国が多く見られる。SDGsの1番目の目標「貧困をなくそう」や2番目の目標「飢餓をゼロに」を達成するためには、国際的な対策が必要だ。また、世界人口の増加傾向も、食料問題に大きく影響を及ぼす。2022年7月公表の「世界人口推計2022年改訂版」によると、2022年11月15日に世界人口は80億人に到達し、その後、2030年に85億人、2050年に97億人にまで増加する見通しだという。
こうした人口増加に伴い、懸念されているのが「タンパク質危機」だ。動物性タンパク質の主な供給源となるのは畜産動物だが、畜産業では大量の穀物を消費する。人口増加によってタンパク質の需要が高まることで、畜産動物と穀物の供給量が不足しかねない。そのため、2030年頃にはタンパク質の需要と供給のバランスが崩れ、「タンパク質危機」が起こると予測されている。
近年、食料やタンパク質の不足を解決する手段として、「培養肉」に注目が集まっている。培養肉とは、鶏や牛などの家畜の細胞を体外で組織培養して作られる肉のこと。世界中で培養肉の研究開発が進んでおり、日本でも東京大学と日清食品が共同し、実用化に向けた研究を行っている。また、2022年9月にアメリカのシェフを対象に実施された意識調査では、86%が培養肉の提供に前向きだと回答し、新たな可能性を秘めた食材として期待を集めている。
一方で、日本国内では培養肉の「食品としての定義」が定まっておらず、原材料や製造工程に関するルールも決まっていなかった。そのため、これまで培養肉の販売を実現することは難しく、品質や安全面に対して懸念や不安を抱く消費者も多かった。
そうしたなか、2023年2月22日に、岸田文雄首相は肉や魚の細胞を培養して育てる「細胞農業」の産業育成に乗り出す考えを示し、培養肉の安全確保や表示ルールの制定に取り組む姿勢を表明。政府は今後、培養肉の生産・販売に向けて環境整備に取り組み、日本発のフードテックビジネスを育成することで世界の食料問題の解決に貢献していくという。国産の培養肉を製造できれば、世界的な食糧危機の解決に貢献することに加え、日本国内の食料自給率の安定にも繋がる。さらに、畜産業で発生し得る環境負荷を軽減できるところもサステナブルなメリットだ。
日本ではまだ馴染みのない培養肉だが、政府の後押しを受けて近い将来には市場に流通しているかもしれない。飲食店でも世界から期待を集める培養肉市場に注目し、提供を目指してみてはどうだろうか。
【参照サイト】世界的な食料危機 | World Food Programme
【参照サイト】国連「世界人口推計」からみえる未来-世界人口は21世紀の終わりまでにピークに達し、18世紀後半からの人口転換は終焉の見通し
【参照サイト】Japan’s Prime Minister Embraces Cultivated Meat As Part of the Country’s Sustainable Future
【参照サイト】日本で培養肉の産業を育成するために必要な「日本に有利なルールづくり」
【参照サイト】岸田首相、培養肉の産業育成に意欲 「環境整備進める」 – 日本経済新聞