持続的に利用が可能な再生可能エネルギー「地熱」。地球内部の熱である地熱は温度帯によって、発電をはじめ暖房、浴用、融雪、農水産業に至るまで幅広い分野に利用することができる。
例えば地熱発電なら、高温の蒸気を地下から取り出してタービンを回して発電するため、二酸化炭素をほとんど排出しない。また、風力発電や太陽光発電と比べて、天候に左右されず安定して電力を供給できるところもメリットだ。

さらに、資源エネルギー庁のデータによると日本は世界3位の地熱資源量を有しており、地熱発電に対するポテンシャルは高いといえるだろう。しかし、地熱発電設備容量は世界で10番目に留まっており、国内で地熱資源の開発があまり進んでいない状況もうかがえる。

地熱 八幡平リゾート

岩手県 松尾八幡平地熱発電所

そうしたなか、豊富な地熱資源を有効に活用するべく、地熱発電の利用促進に取り組んでいる地方自治体のひとつが岩手県だ。

現在、日本の地熱発電所は、火山や地熱地域の多い東北エリアと九州エリアに集中して分布。なかでも東北地方に設置された8か所のうち、5か所は青森県から秋田県、岩手県にまたがる十和田八幡平国立公園エリアにあるという。
この十和田八幡平国立公園に隣接する、岩手県八幡平市の滞在型リゾート施設「八幡平リゾート」では、日本有数の地熱地帯という地域性を活かしたエネルギー対策が実践されている。

地熱 八幡平リゾート

八幡平リゾートの中核となる施設「八幡平マウンテンホテル」

八幡平リゾートは、「八幡平マウンテンホテル」を軸に「八幡平リゾートパノラマスキー場」と「八幡平リゾート下倉スキー場」を運営。1年を通じて雄大な自然と共にアクティビティが楽しめるとして、国内外から多くの人が訪れるという。

すでにリゾート内の八幡平マウンテンホテルでは、2021年6月に地元・八幡平市にある「松尾八幡平地熱発電所」で発電された電力の使用を開始している。そして2025年1月24日、スキー場のリフトをはじめ八幡平リゾート内すべての電力を2月から市内の地熱発電電力に転換することを発表した。

地熱発電の100%利用に切り替えた背景には、同じく2月に八幡平市と地元金融機関3社、電力会社から成る新会社「株式会社はちまんたいジオパワー」が設立されたことが挙げられる。株式会社はちまんたいジオパワーは、地熱発電所の電源を核とする全国初の電力会社だ。同社経由で、八幡平市内にある松尾八幡平地熱発電所および「安比地熱発電所」で作られた地熱電力を民間施設や小中学校など78か所に供給。脱炭素化を促進しながら、地産地消型の電力供給システムを確立することを目的としている。

八幡平リゾートでは、この事業スタートと同時に地熱電力の利用を開始する。

地熱 八幡平リゾート

リゾート施設の性格上、ホテルの設備やスキー場のリフト運行などには大量の電力が必要だ。一方で地球温暖化が加速する昨今、スキー場の降雪量が減少してゲレンデオープンが遅れ、リゾート経営に打撃を与えるリスクも懸念される。八幡平リゾートが地球温暖化の防止策として率先して地熱発電を利用する方針は、スキー場を含めた周囲の環境保全につながるだろう。

また、地熱が八幡平リゾートにもたらす恩恵は、電力供給だけに留まらない。実際に、1966年に日本で初めて商用発電を開始した松川地熱発電所から発電で生じた温泉水が八幡平リゾートを含めた近隣の宿泊施設などに送られ、天然温泉に利用されているという。また、八幡平リゾートの売店では地熱で生じた蒸気を使った「地熱蒸気染色」の商品も取り扱っている。

地熱 八幡平リゾート

(左)八幡平マウンテンホテルの天然温泉「八幡平の湯」、(右)地熱蒸気染色「GEO COLOR」

八幡平リゾートのように、地域資源である地熱発電を活用し、その独自の魅力を発信することで、環境負荷の軽減に貢献できるだけでなく、施設の個性やブランド価値の向上にもつながる。さらに、ゲストにとっても、滞在中のさまざまなシーンで地熱の恵みを体感できることは、旅の大きな魅力のひとつとなりそうだ。

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【参照サイト】【八幡平リゾート】100%を八幡平市内で発電された地熱発電電力利用へ 地元の自然の恵みを生かした地産地消かつサスティナブルなエネルギーを活用
【参照サイト】八幡平リゾートのSDGsの取り組み 八幡平マウンテンホテル 自然に優しい再生エネルギーを採用
【参照サイト】持続可能なリゾートをめざし、地熱電力を採用しています – 八幡平リゾート パノラマ&下倉スキー場/八幡平マウンテンホテル
【参照サイト】経済産業省・資源エネルギー庁:地熱発電の開発
【参照サイト】岩手県 地熱・温泉熱利用ガイドブック ~事業者・市町村の皆さんへ~

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