まだ食べられるにもかかわらず廃棄されてしまう食品は「食品ロス」と呼ばれ、経済の損失や環境への負荷につながる要因のひとつだ。農林水産省及び環境省の推計によると、2023年度に発生した日本の食品ロスは472万トンで、2022年に年間480万トンだった世界の食料支援量とほぼ同等に相当する。
2015年に国連で採択されたSDGsでは、ターゲットの1つに「2030年までに世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させること」が盛り込まれた。目標の達成には、国家が主体となって消費者の意識に働きかけ、食品ロス削減を促すことが重要となるだろう。
そうしたなか、アメリカのバイデン政権は2030年までに食料廃棄を半減させるという目標の一環として、2024年7月に食品ロスに取り組む初の国家戦略を発表した。
アメリカ政府は、同年6月に食品廃棄物に関する協定を更新した米国農務省(USDA)、食品医薬品局(FDA)、環境保護庁(EPA)と連携。企業と消費者に向けて、廃棄を防ぎ、リサイクルを増やし、排出量を減らし、家計を節約するための目標を提示している。
食品ロスや廃棄をなくすことを目指す全米の非営利団体ReFEDによると、アメリカでは全食品の38%が廃棄され、その額は4,730 億ドルにのぼるという。また、廃棄物の多くは埋め立てられ、固形廃棄物埋め立て処分場から排出されるメタンの58%を占めている。
さらに、食品ロスは環境だけでなく、食糧供給の面でも悪影響を及ぼしかねない。実際に、失われたり廃棄されたりした食品の量は約4,600万人のアメリカ人を養うのに十分であり、これはニューヨーク州とフロリダ州全体を合わせた量を上回る。
新しい国家戦略の目的は4つある。食品廃棄の防止、食品ロスの防止、すべての有機廃棄物のリサイクル率の向上、そしてこれらの行動を奨励する政策の支援だ。
いくつかの取り組みは、食品の賞味期限の延長や食品寄付の拡大、食品廃棄物を有用な商品にアップサイクルするための地域インフラの改善のほか、全国的な消費者教育と行動変革キャンペーンの展開などを中心に進められている。
政府とその関係機関は「家庭に食品廃棄物の削減を促すさまざまな消費者メッセージの有効性」を測定するため、250万ドルの投資を行う。また、土地付与大学とそのパートナー、および外部の利害関係者による食品廃棄防止のための研究センターを150万ドルで設立。そして、農家と農作物保険代理店、農場での食品ロス削減を促す収穫組織との連携にも優先的に取り組んでいる。加えて、新しい種子の品種や斬新な包装技術のように、生鮮食品の賞味期限を延ばすことができる技術の研究に資金を提供する予定だ。
米国農務省でも、食品廃棄物を堆肥や飼料、バイオガスなどの新製品にアップサイクルする技術革新に投資。さらに政府によって、学校や食堂で生徒が食品廃棄を減らすための取り組みが拡大している。
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こうした戦略の一環として、ホワイトハウスは官民パートナーシップの重要性を強調。官民の垣根を超えた、食品ロス対策への協力を呼びかけている。
近年、世界中の国や地域で、食品ロス削減に向けたさまざまな規制が実施されている。例えばフランスは、まだ安全に食べられる食品をスーパーマーケットに寄付するよう義務付けた最初の国であり、堆肥化を義務付ける法律も定めている。また、韓国は食品や残り物をゴミとして捨てることを禁止し、代わりに廃棄物を利用して堆肥、バイオガス、家畜の飼料を生産している。
そしてアメリカ国内においても、州によっては食品ロスに関する義務規定を設けている。カリフォルニア州では食料品店やレストラン、ホテルなどに対し、廃棄されるはずだった食品を可能な限り寄付するよう求めており、これに違反した場合は罰金が科せられる。ワシントン州もスーパーマーケットに安全に食べられる食品の寄付を義務付けているほか、メリーランド州では食べられる食品を寄付する農家の税額を控除しているという。
こうした取り組みと比べて、今回発表されたアメリカの戦略は罰則を伴うものではなく、食品ロスを抑制する新たな義務規制も含まれていない。そのため、諸外国や米国の一部の州における食品廃棄物法に及ばないと指摘されている。
また同時に、日本も「食品ロス削減推進法」「食品リサイクル法」という2つの法律を制定しているものの、知識の普及や啓発が中心で、具体的な対策がないことが問題視されている。農林水産省のサイトによると、日本の1人当たりの食品ロス発生量は133.6kgと各国に比べても上位に位置している。
世界に大きな影響力を持つアメリカが食品ロス対策を“国家戦略“として推進することで、日本も含めた多くの国や人々が、改めて食品ロスの問題に危機感を感じるきっかけになるかもしれない。
【関連サイト】
【参照サイト】食品ロスについて知る・学ぶ | 消費者庁
【参照サイト】農林水産省|令和4年度の事業系食品ロス量が削減目標を達成!
【参照サイト】環境省|我が国の食品ロスの発生量の推計値(令和4年度)の公表について
【参照サイト】US Government Issues First National Strategy to Fight Food Waste
【参照サイト】NATIONAL STRATEGY FOR REDUCING FOOD LOSS AND WASTE AND RECYCLING ORGANICS
【参照サイト】 農林水産省:食品ロスの現状を知る