近年、食用肉のなかでも持続可能かつヘルシーな食材として注目されているのが、「ジビエ」だ。ジビエとはフランス語の「gibier」に由来し、狩猟によって得られる野生動物の肉を意味する。牛や豚、鶏の肉に続く第4の肉ともいえるジビエだが、消費者の認知度向上と利用拡大には、まだまだ課題があるだろう。
そうしたなか、日本では農林水産省を中心に、ジビエの活用を推奨している。背景にみられるのは、野生鳥獣による獣害の深刻化だ。農林水産省の報告によると、令和3年度には野生鳥獣による農作物被害額が155億円にのぼり、その約7割を鹿、猪、猿が占めたという。獣害は農家の耕作放棄や離農を引き起こし、農村地域全体を衰退させかねない。また、野生鳥獣が農作物や森林の植物を食べてしまうことで、土壌流出や希少植物の減少といった環境問題も発生する。獣害が人間と環境に与える影響は、非常に大きい。
こうした獣害を防ぐには、有害鳥獣を積極的に捕獲する必要がある。同時に、捕獲鳥獣を廃棄処分するのではなくジビエに利用できれば、農村地域の活性化にもつながるだろう。
一方で、ジビエには寄生虫の感染やウイルスによる食中毒といったリスクが考えられるため、取り扱いに注意しなければならない。ジビエの提供者が正しく衛生管理できるように、ジビエ食品の加工販売を行う「有限会社サンセイ」は、ジビエの処理研修に特化した日本初の施設「日本ジビエアカデミー」を大分県宇佐市にて5月16日にオープンした。
日本ジビエアカデミーでは、野生鳥獣の狩猟から解体、そしてジビエに加工販売する方法まで、幅広く指導。実技は基本的にOJT研修で、状態の判別方法から個体に合わせた刃の入れ方、毛の処理や汚染物逆流防止結索等を行う。座学ではジビエの基礎知識、衛生面、栄養面、美味しいジビエの作り方まで研修。要望により狩猟から、食肉加工、ジビエ料理、販路開拓、開業支援する。
ジビエの加工販売を検討している企業やジビエ料理に関心のある飲食店は、今後の事業展開に向けてノウハウを習得できる。また、すでにジビエ処理に携わっている業者も、管理体制を見直す機会に利用してみてほしい。
ジビエ料理は、獣害対策に効果を発揮するとともに、食品ロスを減らして“命をいただく”大切さを消費者に伝えるものだ。安全でおいしいジビエ料理を提供する飲食店が増えることで、日本の農村が守られ、サステナブルな食料生産体制を構築できるのではないだろうか。
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【参照サイト】 一般社団法人日本ジビエ振興協会 流通と衛生管理