淡水回遊魚

美しく豊かな海に囲まれた日本では、魚を食べる文化が根付いている。また、近年は世界全体で魚介類の消費量が増加しており、水産資源のさらなる需要拡大は見込まれるだろう。
一方で、地球温暖化による海水温の上昇や、漁業における乱獲・混獲などが原因となり、海洋生態系は崩壊の危機に直面している。

実際にWWF(世界自然保護基金)は、環境問題についての報告書「The Living Planet Index」のなかで、回遊性淡水魚の減少に対して警鐘を鳴らしている。

回遊性淡水魚とは、サケやマス、ウナギ、チョウザメなど、一生の間に海と淡水域を往復する魚類のこと。淡水回遊魚、通し回遊魚とも呼ばれる。人間にとっては主要な食糧のひとつであり、漁業で生計を立てるために欠かせない存在だ。同時に、自然環境と生態系の維持にも大きな役割を果たしている。

淡水回遊魚

しかし、2024年5月のWWFの報告書によると、そうした回遊性淡水魚の個体数は、1970年から平均81%も減少したことが明らかになった。なかでも半数を超える65%の種が平均して減少しており、その傾向はヨーロッパとラテンアメリカ・カリブ海地域で顕著に見られるという。

そもそも淡水には海よりも多くの魚が生息しているが、淡水魚の約3分の1は絶滅の危機に瀕しているのが現状だ。
回遊性淡水魚を含め、淡水魚がこうした深刻な状況に陥っているのは、人間の活動によるところが大きい。ダムの建設や湿地の農地化など、河川流域の開発が進むほど、魚類が回遊できるルートは遮断されてしまう。また、水質汚染や外来種の侵入、乱獲なども、回遊性淡水魚が生息地を失う原因となっている。
WWFによると、過去50年間で湿地の約35%が失われ、世界の大河川のうち自由に流れているのはわずか3分の1に過ぎないという。

淡水回遊魚

ただ、WWFは今回の報告書で、調査対象となった種のうち約3分の1は個体数が増加している点にも言及している。これは、魚類保護区の新設や回遊魚に対する法的保護の強化、ダムの撤去といった対応策が進んだことが理由と考えられる。

具体的な事例として、昨年、ヨーロッパでは487のダムが撤去され、アメリカではカリフォルニア州とオレゴン州にあるクラマス川で過去最大となるダムの撤去が始まった。
今後、回遊性淡水魚を保護するためには、人間の活動に対して適切に管理介入していく必要があるだろう。

とりわけ魚類を扱う食品業界や飲食店において、水産資源の枯渇は看過できない問題だ。回遊性淡水魚が置かれている危機的状況を理解したうえで、サステナブルな水産物を選択したり、季節や産地に応じたメニュー開発をしたりなど、水産資源の保全に積極的に関わることで業界全体の持続可能性に貢献できるのではないだろうか。

【関連記事】

想像以上に深刻。魚を取り巻く問題解決のために、飲食店ができること

【参照サイト】The Living Planet Index (LPI) for migratory freshwater fishes 2024 update
【参照サイト】One-third of freshwater fish face extinction and other freshwater fish facts | Stories | WWF
【参照サイト】Report Details ‘Catastrophic Decline’ of Migratory Fish | Yale E360
【参照サイト】Migratory Fish Are Disappearing | Blog | Nature | PBS

table source 編集部
table source 編集部
table source 編集部では、サステナビリティやサーキュラーエコノミー(循環経済)に取り組みたいレストランやホテル、食にまつわるお仕事をされている皆さまに向けて、国内外の最新ニュース、コラム、インタビュー取材記事などを発信しています。
Share
This