「水の惑星」と呼ばれる地球。表面の3分の2が水に覆われている地球は、水資源に恵まれているように思えるが、実際にはその大部分は海水であり、淡水はわずか2.5%程度。さらに、河川や湖沼などの人が利用しやすい状態で存在する水に限ると、人が利用できる淡水は地球上の水の0.01%しかないのが実情だ。

国連の報告によれば、2030年までに淡水資源は必要量に対して約40%不足すると予測されている。貴重な淡水の使途のうち、69%を占めているのは農業用水だ。淡水資源の確保が喫緊の課題となるなか、多くの水を使う農業のあり方を見直す動きが広がっている。

数ある農作物のなかでも、ウォーターフットプリントが特に大きいとされているのが、「アボカド」だ。アボカド1つあたりの栽培に必要な水は、約400リットル。これはトマトの栽培に必要な量の約10倍であり、家庭用の浴槽約2杯分に相当する。

環境負荷が大きい作物ともいえるアボカドだが、2022年7月、ロンドン芸術大学のカレッジ、セントラル・セント・マーチンズ大学の大学院生Arina Shokouhi氏は、ノッティンガム大学フード・イノベーション・センターの食品科学者Jack Wallman氏と共に、アボカドの代食品「Ecovado(エコバド)」を開発した。

主にそら豆、ヘーゼルナッツ、リンゴ、菜種油を主原料とするEcovadoは、本物のアボカドさながらの濃厚な味わいと、クリーミーな舌触りを再現しているという。外見もアボカドによく似せて作られており、種子の部分はナッツでできているため、食べることができる。皮は、生分解性で堆肥化可能なワックスで作られており、キャンドルとして活用したり、他の食品のパッケージへアップサイクルすることもできる。

市場に流通しているアボカドの生産地は、主に中南米をはじめとする熱帯地域。2019年に報告された「世界食料農業白書」によると、アボカドの生産量トップはメキシコで、年間生産量は約231万トン。そして、その約8割を消費しているのはアメリカだ。

アボカドは、血液中のLDLコレステロールを減少させる良質な脂肪分、「不飽和脂肪酸」をはじめ、ビタミンやミネラル、カリウムなど、人間に必要不可欠とされる約20の栄養素を豊富に含んでいる。その豊富な栄養から、別名「森のバター」とも呼ばれ、「世界一栄養価の高い果物」としてギネス世界記録にも認定されている。

近年、アメリカをはじめ、ヨーロッパやアジアでのアボカドの需要が高まる一方で、輸出入の際に生じるカーボンフットプリントは莫大だ。Ecovadoは、こうした輸送時の環境負荷を最小限に抑えるため、原材料の全てをイギリス産にすることにもこだわっている。現在のEcovadoは、イギリス市場をターゲットに作られたものだが、将来的には世界に市場を拡大し、それぞれの地域で入手可能な原材料を使ったEcovadoのレシピを開発していくという。

環境負荷の低い代替品というと、肉や乳製品など動物性食品にかわるプラントベース(植物性)食品を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。しかし、消費者のサステナブルな意識が高まる続けるなかで「植物性食品だから環境負荷が低い」とは限らないことを知っておく必要があるだろう。

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【参照サイト】Ecovado
【参照サイト】Ecovado could be a greener alternative to ‘green gold’(CNN)
【参照サイト】ウォーターエイド「隠れた水」世界水の日報告書2019
【参照サイト】船昌商事株式会社 輸入アボカドについて
【参照サイト】国土交通省:世界の水資源
【参照サイト】厚生労働省:不飽和脂肪酸

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