新型コロナウイルスの感染拡大は、人々の生活意識や行動にさまざまな変化をもたらしている。2020年11月に、日本政策金融公庫が実施した“コロナ禍における外食・お店選びに関する意識調査”では、解答者の半数以上が「遠出せずに近くのお店で済ませたい」「通い慣れた行きつけのお店を利用したい」と解答しており、地域に根付いた飲食店が好まれる傾向が見られた。
飲食店の地域コミュニティへの参加が見直されるなか、アメリカでは地域の人々の食糧不足を解消するための取り組みが行われている。2022年3月8日、ミシガン州デトロイト市のカーチェヴァル通りの一角に「みんなに無料の食べ物を」と書かれたシェア冷蔵庫と食料庫が設置された。この取り組みは、デトロイト市内でのシェア冷蔵庫の設置を行う非営利団体「Detroit Community Fridge」のプロジェクトの一環として行われている。
このシェア冷蔵庫は24時間年中無休でだれでも利用できる。支援者は、食品を入れる際に簡単な説明と日付を記載したラベルを付けて冷蔵庫に寄付する。衛生的な環境を保つため、支援者は食品を入れる際にその都度、冷蔵庫内の整理を行うことになっている。
同団体が設置した5つ目のシェア冷蔵庫は、デトロイト市で黒人やラテン系の人々への起業支援を行う「Black Bottom Businesses LLC」、デトロイト市で地産地消に積極的に取り組むパイ店「Sister Pie」、サラダ菜の栽培・販売を行う「Planted Detroit」の3社の協力によって設置された。Planted Detroitは、工業都市であるデトロイト市で都市型農業を実現した水耕栽培農家だ。農薬や除草剤を使用せず、気温や肥料などを徹底的に管理した屋内で栽培を行う垂直農法を用いている。
Planted DetroitはSister Pieと共に、自社で生産した新鮮な有機野菜を使用した大量の野菜と、パック入りのランチサラダを、週に2回ほど冷蔵庫に寄付する予定だという。また、Sister Pieでは、店舗で商品を購入する際、購入金額に数ドル上乗せして支払うことで、シェア冷蔵庫の運営資金への寄付ができる「Neighborhood fund(ご近所ファンド)」という取り組みも実施している。寄付金は冷蔵庫に入れる食料の購入などに充てられるという。
日本ではあまり馴染みのないシェア冷蔵庫だが、アメリカ国内では新型コロナウイルスの感染拡大以降、無料のシェア冷蔵庫プロジェクトが急速に拡大しつつある。世界中のシェア冷蔵庫のマップを管理するデータベースコミュニティ「Freedge」では、150を超える数のシェア冷蔵庫が確認できる。感染症拡大の影響によって職を失った人々や、政府による救済措置制度の対象外となる非正規滞在者など、多くの人々の食料確保に貢献している。
SDGsの2番目の目標「飢餓をゼロに」では、だれもが一年中安全で栄養のある食料を十分に手に入れられるようにすることを目指している。地元や近隣地域の飲食店が協力することで実現した今回の取り組みは、失業率が高いことで知られるデトロイト市において、非常に貢献度の高いものだろう。地元の飲食店だからこそできる地域貢献に取り組むことで、地域に根付いた長く愛されるお店づくりにも繋がるのではないだろうか。
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【参照サイト】Community fridges are lifelines for the neighborhoods they serve
【参照サイト】日本政策金融公庫 「飲食店の感染予防対策 消費者の7割以上がお店選びに「影響」と回答」
【参照サイト】IDEAS FOR GOOD 垂直農業とは・意味
【参照サイト】Black Bottom Businesses LLC 公式ホームページ
【参照サイト】DETROIT COMMUNITY FRIDGE A COMMUNITY AID PROJECT 公式ホームページ
【参照サイト】Planted Detroit 公式ホームページ
【参照サイト】Sister pie 公式ホームページ
【参照サイト】Freedge 公式ホームページ