新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、観光業は大きな打撃を受けることとなった。その一方で、封鎖措置が敷かれたイタリアのヴェネチアでは運河の水質が改善し、交通量が減少したインドでは大気汚染物質の排出量が削減されたという。世界各国の観光地でオーバーツーリズムがもたらす環境への負荷が浮き彫りになるにつれて、より注目されているのが「エコツーリズム」だ。
エコツーリズムとは、地域の自然や文化を保全しながら、その魅力を観光客に伝えたり実際に体験したりしてもらうことで学びを深める仕組みのこと。同時に、地域の住民も観光資源としての価値を再認識できるようになりさらなる地域活性化につながるだろう。
つまりエコツーリズムには、観光する側とされる側、双方にメリットがあるといえる。
しかし、エコツーリズムに関心があっても実際に体験するまでには至っていない、という人も多いのではないだろうか。こうした価値観と行動のギャップを埋める取り組みが、デンマークの首都、コペンハーゲンで始まっている。
同じ北欧の都市であるヨーテボリとオスロに次いで、世界で3番目に持続可能な都市にランク付けされているコペンハーゲン。自転車の数は自動車の4倍であり、電力の70%以上が自然エネルギー由来、さらに暖房は主にバイオマスで賄われている。
また、デンマークでは国家レベルで気候政策を展開。10年後までに、1990年比で二酸化炭素排出量を70%削減するという目標を掲げている。2024年6月には、最大の二酸化炭素排出源とされる農業において世界初となる炭素税を課すと発表した。
今回コペンハーゲンに導入される「CopenPay」は、サステナブルな行動をした観光客に対して特典を与える制度だ。24の組織と企業がこの制度に賛同し、協力している。2024年7月15日より試験的に運用を開始し、ハイシーズンにあたる8月11日まで実施する予定。
コペンハーゲンの観光局は、CopenPayの目的を「環境に配慮した行動を通貨に変える制度によって、持続可能な行動を奨励し、観光客や住民の文化体験を豊かにすること」だと語る。また、CopenPayは観光客を増やすためではなく、観光客と住民にサステナブルな行動を促すためにコペンハーゲンのみで実施されるという。
試験導入の評価次第では、CopenPayの通年利用が実現するとともに、他の地域に拡大する可能性も考えられる。
CopenPayの利用方法は、シンプルでわかりやすい。観光客や住民がコペンハーゲンで環境に配慮した行動を取れば、指定の観光スポットにおいて多彩な特典を受けることができる。
具体的な例としては、車の代わりに自転車や公共交通機関を利用する、清掃活動やボランティアを行うといった行動だ。特典はほとんど信頼に基づいて付与されるが、電車の切符や環境活動に参加している写真など、証明の提示が求められる場合もある。
CopenPayの特典は、大きく分けて、食べ物と飲み物・都市探検・文化体験の3つ。例えば、さまざまな施設でコーヒーやアルコール、アイスクリームなどを無料で提供してもらえる。また、美術館や博物館への割引チケットも利用可能だ。さらにカヤックを無料でレンタルしたり、電動ボートでの運河ツアーに無料参加できたりもする。
今後、新たな旅のトレンドとして、エコツーリズムやサステナブル・ツーリズム(持続可能な観光)の需要はますます高まっていくだろう。観光客のそうした需要に応えるため、日本のホテルやレストランでもサステナブルな行動への特典を企画・発信してみてはいかがだろうか。
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