日本をはじめアジア諸国では身近な食材のひとつである海藻類。近年ではアメリカやヨーロッパで、そのサステナブルな側面が注目を集めている。
海藻類は低カロリーでありながら豊富な栄養素を含んでいるうえ、多くの水や土地を使うことなく栽培することができる。また水中で光合成をし、二酸化炭素を取り込んで酸素を放出することから、2009年の国連環境計画(UNEP)の報告書では「ブルーカーボン」と命名された。
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人にも環境にも優しく、さまざまな可能性を秘めていると言われる海藻。チリのサンティアゴ大学では、そうした海藻の可能性をさらに広げるユニークな研究が行われている。
サンティアゴ大学のプロジェクトは、太陽光パネルに似たバイオ光起電パネルの電極に海藻を敷き詰め、光を電気エネルギーに変換しようとするもの。つまりバイオ光起電を活用して、海藻を太陽光発電の潜在的な再生可能エネルギー源に変えようとしているのだ。
科学者たちが専門とするバイオ光起電は、植物や藻類の自然な光合成プロセスを利用する技術だ。藻類は太陽光を浴びると水を酸化させ、エネルギー生成の一過程において電子と酸素を放出する。この電子を電気回路に取り出すことで、電流が生まれるという。また、同時に酸素という有益な副産物を得られる点で、環境的価値も付加されている。
このプロジェクトでは、大型藻類の一種である海藻に特化して研究を進めている。今までの類似プロジェクトでは、主に単細胞生物の微細藻類を使用していた。これに対し、多細胞生物の大型藻類はより丈夫でさまざまな条件に耐えることができるうえ、成長も早い。高度な設備を必要とせず、短期間で大量収穫してエネルギー源に転用できるところがメリットだ。
また、チリは世界で最も多様な海洋生態系を有する国の一つであり、広大な沿岸水域には長い海岸線が形成されている。冷たい海流のもとでは豊富な海藻種が繁殖しており、長い間農業や漁業に利用されてきた。再生可能エネルギーの開発分野において、チリは地理と生態系の両面で恵まれた環境だといえるだろう。
一方で、海藻太陽光発電の実用化に向けては、効率性が大きな課題となっている。実際に従来の再生可能エネルギー源と競合できるほどの電力を生産することは難しく、あくまでも開発の初期段階に過ぎない。
研究チームはさまざまな海藻の種を試したり、光の照射を調整したり、パネルの設計を変更したりして、発電システムの能力を最適化しようと取り組んでいる。現状ではLEDや電球の電源供給などの小規模な用途には効果的であることが証明されているが、より高いエネルギー需要を満たすためには、さらなる技術革新が必要だ。
また研究チームでは、海藻太陽光発電を既存のエネルギーシステムに統合する方法も模索している。淡水や耕作地が不足している地域でも、最小限の資源で栽培できる海藻でエネルギー源を補えれば、持続可能な発電サイクルを生み出せるかもしれない。
日本人にとって身近な存在である海藻。その可能性は食材としての枠を超え、新たな分野にも広がっている。こうした世界の動きに、今後も注目していきたい。
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【参照サイト】国土交通省:ブルーカーボンとは
【参照サイト】Electric seaweed fuels pursuit of algae power in Chile – CNA
【参照サイト】Chile’s University Pioneers Seaweed as the Future of Green Energy – LatinAmerican Post