
タコは、日本を含めたアジアやヨーロッパでも人気のある魚介類だ。実際に、国連食糧農業機関(FAO)の統計によると、EUでは2018年に約12万5000トンのタコを消費した。また、アジアにおけるタコの消費量はさらに多く、19万トンに達しているという。こうした需要の増加に伴い、世界中で乱獲が横行していることでタコの個体数は逼迫しており、水揚げ量も数年前から減少傾向にある。
タコを安定して供給する手段のひとつに養殖が挙げられるが、海外ではそこに待ったをかける動きも起こっている。
2024年9月にアメリカのカリフォルニア州で「タコ養殖禁止法案(Bill to ban octopus farming)」が成立し、2025年1月より施行されることとなった。これはワシントン州に続く2例目であり、同様の法案は米国上院とハワイ州でも提出されているという。
「タコ養殖禁止法案」は、州の水域や州内の陸上にある養殖水槽でタコを飼育、繁殖させることを違法とする。また、原産地を問わず、人間が食べるために飼育されたタコの販売、所有、輸送に事業主や経営者が故意に関与することを禁止。これにより、カリフォルニア州では食用目的でタコを養殖する行為だけでなく、養殖されたタコを市場に流通させる行為も犯罪となる。
では、タコの養殖に対して厳しい制限が課せられるのは何故なのだろうか。
カリフォルニア州の宣言の1番目には、「タコは非常に知的で、好奇心が強く、問題解決能力に優れた動物だ。タコは意識と感覚を持ち、認知的および行動的に複雑であり、痛み、ストレス、恐怖だけでなく、喜び、平静さ、社会的絆を経験することができる。」と記されている。タコは長期記憶を持ち、情報を保持し、個々の人間を認識する能力まであるという。
また、イギリスの研究機関の分析によると、養殖時の閉じ込められた環境では攻撃的になって共食いをする傾向が見られることがわかっている。さらにはタコは肉食動物で、タコを養殖するために必要な飼料となる水生動物タンパク質の重量は、タコの体重の約3倍にもなり、養殖することは魚類資源をさらに枯渇させることにつながることが指摘されている。
こうしたタコの特性から、タコを養殖することは非効率的なうえ、アニマルウェルフェアの観点において問題がある残酷な行為だと捉えられているわけだ。
タコを巡っては、すでに世界各国でさまざまな対応が取られている。2021年11月には、イギリス政府がタコを含む十脚目および頭足類を「感性のある動物」とみなし、動物福祉(感覚)法の保護対象に追加するとともに、調理方法に配慮するように呼びかけている。
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また、スイスやニュージーランドといった一部の国では、すでに甲殻類を生きたまま調理することが法律で禁止されている。オーストラリアでもこうした流れを受けて、プラントベース(植物性)の代替え食品が開発・販売され、話題になった。
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そして今回のカリフォルニア州での法案施行は、人道的な水産養殖推進の一環と位置付けられる。
世界中でアニマルウェルフェアを重視する施策が取られるなか、日本も無関係ではいられないかもしれない。しかし、日本にはタコを使ったさまざまな料理が根付いているという事実もある。こうした海外の動きを知ることで、伝統的な食文化を守りつつ、サステナブルな選択肢を模索することにつなげていきたい。
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【参照サイト】 California Legislative Information
【参照サイト】 OCTOPUS FACTORY FARMING:A RECIPE FOR DISASTER | Compassion in World Farming
【参照サイト】Los Angeles Times:Newsom signs bill to ban octopus farming in California