近年、世界における1人1年当たりの食用魚介類の消費量が増えている。一方で、地球温暖化の進行や漁獲量の急増に伴い海の生態系が破壊され、水産資源の枯渇もより深刻化しているのが現実だ。
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水産資源枯渇の問題は、各地に根付いた食文化の継承にも影響を及ぼしかねない。そのわかりやすい例が、イギリスを代表する伝統料理「フィッシュ・アンド・チップス」だ。英大手新聞「The Guardian(ガーディアン)」によると、イギリス国内に1万軒以上あるフィッシュ・アンド・チップス店のうち、最大で半数が2025年中に閉店する恐れがあるという。

フィッシュ・アンド・チップスは、誰もが手頃な価格で楽しめる料理として親しまれており、かつては第二次世界大戦中でさえ配給制を免れたほどだった。
しかし現在、店側が販売価格を安く抑えることは難しくなっている。その大きな原因は、インフレがもたらすコストの上昇だ。そもそもフィッシュ・アンド・チップスに欠かせないタラの価格が高騰しているうえに、ジャガイモも不作だという。特にジャガイモについては、一般的に冷涼な気候で育つため、気候変動の影響によって今後イギリス国内での生産が存続できなくなると危ぶまれている点も看過できない。
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光熱費も高止まりの状態にあるうえ、イギリス政府が2025年4月より最低賃金額を引き上げたことで人件費が増大し、利益率を押し下げていると考えられる。

また、フィッシュ・アンド・チップス店の約62%は家族経営であり、閉店が相次げば、何世代にもわたって受け継がれてきた味までも失われてしまう。
同時に、イギリスで収穫されるジャガイモの約10%を消費し、年間1億6,700万食を提供するフィッシュ・アンド・チップス産業の衰退も避けられず、社会経済への打撃は大きいだろう。
こうした状況を受けて、業界団体「The National Federation of Fish Friers(全英フィッシュ・アンド・チップス協会)」は、イギリス国民に対し「年間で2人分多く購入してほしい」と呼びかけている。
地域に根付いた定番メニューほど、多くの人々にとってその存続危機が見えにくいものかもしれない。「今日も明日も食べられる」と当たり前に思うからだ。
しかし、あって当然と思われている食文化の継続こそ、実は当たり前ではない──。そのことを今、改めて伝える価値があるだろう。
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【参照サイト】Battered: why half of UK’s fish and chip shops face closure – video | Food | The Guardian
【参照サイト】水産庁:(2)世界の水産物消費
【参照サイト】最低賃金、2025年4月より時給12.21ポンドに引き上げ(イギリス:2024年11月)|労働政策研究・研修機構(JILPT)
【参照サイト】National Federation of Fish Friers – Serving the Fish and Chips industry




















































