近年、大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済システムが限界を迎えるなかで、世界では資源を使い捨てることなく使い続ける「サーキュラ―エコノミー(循環経済)」の考え方が注目を集めている。2015年9月に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の12番目の目標「つくる責任つかう責任」でも、天然資源の効率的な利用や、廃棄物の発生防止や再利用による廃棄量の削減を目指している。生産者には、少ない資源でより多く、より長く使える良質な商品をつくることが求められている。
そうしたなか、1908年創業の老舗洋食器メーカー「ニッコー株式会社」は、食器としての役目を終えたボーンチャイナ製の洋食器を肥料としてリサイクルする技術を確立し、農林水産省より肥料として認定されたことを2022年3月11日に発表した。
ニッコーが国内の自社工場で一貫製造するNIKKO FINE BONE CHINA(ニッコーファインボーンチャイナ)製の食器は、その白さと透光性、食品衛生法に適合する安全性から、世界中の多くのホテルやレストランで採用されている。今回同社では、ボーンチャイナの原料の主成分であるリン酸三カルシウムが肥料として有効なことから、生産過程で生じる規格外食器をリサイクルし、リン酸肥料「BONEARTH(ボナース)」として商品化した。2022年3月時点の同社の調べによると、陶磁器業界・肥料業界・主要企業では、世界初となるリサイクル肥料だ。
販売は2022年4月2日より開始され、300g入り(税込715円)と800g入り(税込1,320円)の2種類がある。ニッコーの公式オンラインショップや渋谷区富ヶ谷にある実店舗「LOST AND FOUND TOKYO STORE(ロスト アンド ファウンド トウキョウ ストア)」で購入できる。
現在国内で使用されているリン酸は、その多くを海外からの輸入に頼っており、輸入価格の高騰により肥料価格は大幅に上昇している。BONEARTHは、これまで欠けや割れで産業廃棄物として廃棄せざるを得なかった食器をリン酸肥料として活用した、サステナブルな肥料だ。廃棄食器を資源として国内で循環させることで、埋め立てなどの廃棄物削減や、リンの輸入や輸送によるCO2の削減が期待できる。さらに、現存する肥料と比較して環境流出しにくいため、環境負荷が生じる心配もない。
肥料の効果としては、リン酸肥料として花や実をたくさん付けたい場合に特に効果的で、果実の成熟や品質向上にも働きかけるという。食器製造の段階で高温焼成されているため臭いもなく、長期保存できる安全・清潔な肥料だ。一般的な肥料は入れすぎることで植物の成長を妨げる原因になるが、BONEARTHは適量のリン酸を養分として吸収することがわかっている。万が一入れすぎたとしても、成長の妨げになる心配がないうえに、持続性があるので植物に安定して養分を与えることができるという。
ニッコーでは、サーキュラーエコノミー(循環経済)の原則に沿ったさまざまな取り組みを進めており、第一段階としてBONEARTHの開発・製造・販売を開始。今後は第二段階として、サブスクリプションサービス「sarasub」を含む、ホテル・レストランで使用された自社品の回収に取り組む予定だ。第三段階では、他社品を含め広く回収し、BONEARTH以外のリサイクル商品の製造販売を行い、より多くの食器の循環を目指している。
上質な食器づくりに欠かせない土や石などの天然資源の枯渇が進んでいる一方で、レストランやホテルの現場では食器は「消耗品」として認識され、割れることを前提に強度よりも導入コストを優先した結果、廃棄量が増えてしまうという現状がある。罪悪感を抱えながら、食器を処分していた人も多いのではないだろうか。
ニッコーは食器の循環社会の実現へ向けて、自社の取り組みだけでは不十分だとして、食に関わる業界全体が結束して食器の循環に取り組むことを呼びかけている。同時に、食器の循環モデル導入の協力レストランの募集も行っている。興味のある方は問い合わせてみてはいかがだろうか。
【参照サイト】 BONEARTH ボナース 捨てられる食器から生まれた美しい肥料
【参照サイト】 取り皿のサブスクリプションサービス
【参照サイト】 プレスリリース:世界初!洋⾷器のニッコーが捨てられる⾷器をリサイクルした肥料「BONEARTH」を商品化
【関連サイト】ニッコー株式会社公式サイト
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