コーヒーは、カフェやレストランのメニューに欠かせない飲み物だ。身近な嗜好品のひとつであるコーヒーだが、実は「コーヒー2050問題」と呼ばれる危機的状況に直面している。
「コーヒー2050問題」とは、気候変動の影響によってコーヒーの栽培に適した土地が半減し、2050年までにこれまでの生産活動が存続できなくなる可能性を指すものだ。
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コーヒーの栽培には環境条件が整っていなければならず、農作物の中でも特に気候変動の影響を受けやすい植物だ。今世紀末までに絶滅する可能性があるアラビカ種を含め、全コーヒー種の60%近くが絶滅の危機に瀕しているという。コーヒー生産者の大半を占めるのは中南米やアフリカなど発展途上国の小規模農家であり、生産量の減少が貧困を加速させる要因ともなり得る。
また、コーヒーの栽培による環境への悪影響も懸念されている。例えばコーヒー製品1kgあたりのCO2排出量は29kgといわれ、肉やチョコレートに次いで多い。また、コーヒー1杯につき140リットルの水が消費されている。
今、世界ではコーヒーと地球環境を取り巻く問題の解決策として、サステナブルなコーヒーの開発が求められている。
そうしたなか、シンガポールにあるフードテックのスタートアップ企業「Prefer」では、豆を使わないコーヒーを開発・製造している。
Preferの代替コーヒーは、地元シンガポールの食品企業から出る副産物を活用しているところが特徴だ。ベーカリー企業「Gardenia」からは余ったパンを、豆乳メーカー「Mr Bean」からは豆腐製造時の残りかすを、「1925 Brewing Co.」「Brewerks」からは使用済みのビール醸造用穀物を調達し、原料としている。
この原料を発酵させ、焙煎した後、粉砕してコーヒー粉に加工。3つの工程を経た原料は、独自の技術でコーヒーに含まれる主要なアロマ揮発成分と同じものに変換される。
同社の計算によると、豆を使わないコーヒーにおけるCO2排出量は、従来のコーヒーと比べて10分の1と推定されるという。
2024年2月22日には、複数の企業から投資を受け、200万ドルのシード資金を調達したと発表。今回の新たな資本注入を通じて、生産規模の拡大とアジアでの事業展開を目指すとしている。
発酵由来のユニークな代替コーヒーは、コーヒー業界に革命を起こす次世代の商品といえるだろう。さらに同社では、代替コーヒーに留まらず、発酵技術によるサステナブルな食品の開発も計画している。
近年、アジアではコーヒーの需要が急速に伸びており、日本も例外ではない。日本コーヒー協会によると、2018年の日本国内のコーヒーの消費量は47万213トンであり、10年前から約1割、20年前からは約3割も増加した。今後もさらなる需要増加が見込まれるなかで、代替コーヒーのもたらす市場効果は大きいと考えられる。
今後も「コーヒー2050年問題」の解決につながるユニークな商品、Preferの動向に注目したい。
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【参照サイト】 Prefer | bean-free coffee
【参照サイト】 全日本コーヒー協会 日本のコーヒー需給表
【参照サイト】 Using Bread, Tofu & Grains, Prefer Raises $2M for Beanless Coffee
【参照サイト】 Singapore start-up Prefer makes bean-free coffee using repurposed food waste – CNA Lifestyle