チョコレートといえば一般家庭はもちろん、飲食店でも人気の高いスイーツのひとつだろう。
その原料となるカカオは、世界の生産量の約70%を西アフリカの小規模農家が担っている。しかし近年、気候変動に伴ってカカオの栽培環境は深刻な脅威にさらされており、2050年までに3分の1が枯死する可能性もあるという。とりわけ二大生産国であるコートジボワールとガーナの農園は、異常気象と作物の病害により最も大きな打撃を受けている。このままカカオの生産量が減少し続ければ、価格高騰に歯止めがかからず、世界的なチョコレート不足に陥る可能性もある。
また、チョコレートの製造過程における二酸化炭素の排出量や水の使用量が多いという点も、環境への影響が指摘されている。

そうしたなか、チョコレートの世界最大手サプライヤー兼メーカーである「Barry Callebaut(バリーカレボー)」は気候変動とカカオ価格の高騰により過去9か月間で販売量が6%減少した事実を受け、細胞培養技術を用いた農業に着目。
チューリッヒ応用科学大学(ZHAW)と戦略的パートナーシップを締結し、カカオ細胞培養技術の研究を推進する方針を示した。同社はこの提携について、チョコレートの未来を形作る革新的な能力の構築に向けたアプローチと位置づけている。
スイス・チューリッヒに本社を置くBarry Callebautは、世界で60カ所以上の製造工場を運営する、世界有数のチョコレートメーカーであり、日本法人も設立している。2016年からは「Forever Chocolate」という戦略を掲げ、持続可能なカカオとチョコレートのサプライチェーン構築に向けた取り組みを進めている。さらに、カカオ代替品の開発にも注力しており、すでにヨーロッパの一部地域では精密発酵によってヒマワリの種から作られた製品を提供している。
一方、チューリッヒ応用科学大学では、細胞培養技術の専門家であるTilo Hühn教授とRegine Eibl-Schindler教授のチームが研究を行う。彼らのチームは2021年にカカオ豆の細胞培養によるチョコレートの製造に初めて成功しており、これまでの研究成果や論文をベースにBarry Callebautとのプロジェクトを進めていく予定だ。
細胞培養技術を農業に活用することで、二酸化炭素排出量や資源の消費量、さらに土地の利用面積を削減する効果が見込まれる。つまり、カカオの生産を細胞培養技術で補えるようになれば、農家が土壌や気象などの自然条件に左右されるリスクも低減できるだろう。
今回のパートナーシップはまだ始まったばかりだが、Barry Callebautは細胞培養技術によって独特の風味とより高い健康効果を持つ新たなチョコレート製品を開発できると説明。また、代替カカオ源を確保してサプライチェーンの回復力を強化するとともに、伝統的なカカオ農家のコミュニティをサポートする。
ただし、カカオ源を農園での栽培から細胞培養へと置き換えるわけではなく、消費者に新たな選択肢を示したうえで持続可能な供給体制を目指すという。

今や細胞ベースのカカオは他の大手メーカーも投資に乗り出すジャンルであり、今後も技術開発を支援する傾向が続くと考えられる。
カカオの細胞培養は、環境、社会、品質すべてにおいて、従来のチョコレート業界が抱える問題を包括的に解決し得る画期的な手段だ。日本でも産学官連携を通じてこうした技術革新に注力することが、持続可能な農業の実現に必要なのではないだろうか。
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【参照サイト】細胞農業とは | 日本細胞農業協会 CAIC
【参照サイト】Barry Callebaut partners with the Zurich University of Applied Sciences to Explore Cocoa Cell Culture Technology
【参照サイト】World’s Largest Chocolate Supplier to Explore Cell-Based Cocoa




















































