近年、「環境制御型農業」に注目が集まっている。環境制御型農業とは、光や温湿度、CO2濃度などの施設内の環境を制御した施設園芸による農業の総称だ。地球温暖化による異常気象の影響により農作物の安定的な生産が見込めないことや、食料自給率低下などの社会・環境問題の解決に繋がる糸口として重視されている。
都会の高層ビルや倉庫などの“高さ”を活用して垂直的に農作物を生産する「垂直農業」や、建造物の屋上に温室を建ててその中で栽培を行う「屋上農業」も環境制御型農業に含まれる。こうした人口の多い都市部で行う農業は「都市農業」や「都市型農業」とも表現されるが、近年は農業だけでなく「都市養蜂」も同様の広がりを見せている。
この「都市養蜂」に積極的に取り組んでいるのが、京都駅前に立地する「THE THOUSAND KYOTO(ザ・サウザンド京都)」だ。同ホテルは、2021年5月、都市養蜂プロジェクトの始動を発表し、話題となった。この取り組みは、ホテルの屋上に巣箱を設置し、セイヨウミツバチ約10,000匹を飼育するというもので、京都のホテルでは初めての取り組みだ。
始動から約1年後、当初10,000匹だったミツバチの数は30,000匹以上となった。2022年7月27日、同ホテルはプロジェクトで採取したハチミツを、「ハチ(8)ミツ(3)」の日である2022年8月3日より、数量限定で販売することを発表した。また、ホテル内レストランではハチミツを使ったメニューが提供される。
京都市内の樹木、植木、花など身近な蜜源からミツバチが運んできた100%京都産のハチミツは、花々の香りが豊かで、すっきりとした味わいが特徴だという。同ホテル内のカフェ&バー「TEA AND BAR」と公式オンラインショップにて、170瓶限定で販売される。
◆すだちスカッシュ
【提供期間】 8月12日(金)~
【提供価格】 1,400円
【提供場所】 カフェ&バー 「TEA AND BAR」、日本料理「KIZAHASHI」
◆ゴルゴンゾーラリゾット サフランとはちみつのソース【提供期間】 8月12日(金)~
【提供価格】 単品1,400円
【提供場所】 イタリア料理 「SCALAE」
◆ハニーレモン・フロマージュ
【提供期間】 9月1日(木)~
【提供価格】 単品1,500円、ドリンクセット2,400円
【提供場所】 カフェ&バー 「TEA AND BAR」
同ホテルが養蜂を行う主な目的は、ミツバチを飼育することで京都市内の緑化や、生態系の維持に貢献すること。SDGsの13番目の目標「気候変動に具体的な対策を」と15番目の目標「陸の豊かさも守ろう」に関連する取り組みだ。また、副産物として採れたハチミツを活用することは、地産地消の実現にもつながっている。
近年、ミツバチの減少に対する関心が世界的に高まっている。農林水産省が2016年に公開した「農薬による蜜蜂の危害を防止するための我が国の取組」によると、欧米では、2000年代より、ミツバチが越冬できずに消失したり、働き蜂のほとんどが女王蜂や幼虫などを残したまま突然いなくなり蜜蜂の群が維持できなくなったりする「蜂郡崩壊症候群(CCD)」が多く報告されているという。ミツバチは、イチゴやトマト、メロンなどの園芸作物生産における花粉交配の役割を担っており、生態系を維持するためには欠かせない生物だ。
ホテルが養蜂を行い、その収穫物であるハチミツをお客さまに提供することは、環境や都市養蜂について、お客さまに考えていただくきっかけになるだろう。ホテルが生産者と提供者の立場を兼ねることで、より説得力のある発信が可能になるのではないだろうか。
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【参照サイト】【THE THOUSAND KYOTO】~京都駅前から生物多様性の保全に貢献、地産地消によるSDGsの実現へ~ 京都駅前・当ホテル屋上で採れた “サステナブルはちみつ”が初の商品化
【参照サイト】農林水産省 農薬による蜜蜂の危害を防止するための我が国の取組
【参照サイト】農林水産省 花粉交配用昆虫について
【参照サイト】FOMC 持続可能な農業のための受粉サービスに関するFAOの世界的行動
【参照サイト】国立国会図書館 我が国の養蜂をめぐる動向
【参照サイト】世界におけるミツバチ減少の現状と欧米における要因
【参照サイト】京阪ホテルズ&リゾーツ、屋上でミツバチを飼育する「都市養蜂プロジェクト」を開始