昨年11月、table sourceを運営する陶磁器メーカーのニッコー株式会社の取り組みである「NIKKO Circular Lab(ニッコーサーキュラーラボ)」が「crQlr Awards (サーキュラー・アワード)」で、2名の審査員から賞を受賞した。こうした、サステナビリティに焦点を当てたアワードは世界中で徐々に増えており、取り組みの認知を求めてさまざまな企業がエントリーをしている。最近では、企業のサステナブルな取り組みに第三者の目が入っていないと、「グリーンウォッシング」や「グリーンウォッシュ」とみなされ、批判の対象になってしまうこともあることもアワードの盛り上がりの一つの要因だろう。
また、アワードへのエントリーと同様に、レストランやホテルのサステナビリティの見直しや認知に役立つのが、認証制度などの利用だ。今回のインタビューは、サステナブルなフードサービス実現のための飲食店レーティングプログラム「FOOD MADE GOOD」の展開を行う、一般社団法人「日本サステイナブル・レストラン協会(SRA-J)」の代表理事・下田屋毅さんにお話を伺った。
話者プロフィール:下田屋 毅さん
日本と欧州とのCSR/サステナビリティの懸け橋となるべくSustainavision Ltd.を2010年英国に設立。ロンドンをベースに日本企業へサステナビリティに関する研修、リサーチを実施。2018年、英国サステイナブル・レストラン協会との提携により一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会を日本に設立。飲食店・レストランのサステナビリティを向上させるとともに、フードシステム自体を変え、より良い状態へとシフトするための活動に取り組んでいる。
包括的な「食のサスティナビリティ」の指標を、日本でも
サステイナブル・レストラン協会(The Sustainable Restaurant Association(SRA))は、持続可能な食の循環を実現させることを目的に2010年にイギリスで設立された団体だ。同協会のレーティングは、食のアカデミー賞として知られる「世界のベストレストラン50(The World’s 50 Best Restaurants)」の評価指標にも使われている。日本支部である「日本サステイナブル・レストラン協会(SRA-J)」は2018年に発足し、2020年7月に活動を開始したという。どのような経緯で日本での設立に至ったのだろうか。
「サステイナブル・レストラン協会の支部は、日本以外にも香港・ギリシャがあり、またハンガリー・チリ・台湾などの団体とも連携し世界中に展開を続けています。なかでも日本は初めての支部として発足しました。私自身は昔から、地球環境問題の解決に貢献したいとの想いがあり、2010年頃からロンドンに拠点を置き、日本企業のCSR/サステナビリティを支援する活動を行ってきました。欧州諸国がサステナビリティを推進しているなかで、日本と欧州の架け橋として活動していたところ、サステイナブル・レストラン協会と出会いました。“レストランのサステナビリティを包括的に評価することで、より良い食の循環を目指す”という協会の使命に共感し、日本支部の立ち上げに向けて動き始めました。」
サステイナブル・レストラン協会では、同じ志を持つ各国の他団体とも情報交換しながらグローバルに活動を進めているという。近年、世界中で健康や環境に配慮した食への意識が高まりつつあるなかで、特にヨーロッパ諸国は国民一人一人の環境意識が高いことでも知られている。
「日本での活動を開始して感じたのは、本拠地のあるイギリスと比べて消費者の方々のサステナビリティ意識に差があるということでした。もちろん、日本にもサステナビリティに関心のある方はたくさんいらっしゃいます。しかし、美味しさや安さだけでお店を選んでいる方もまだまだ多いと感じます。食を楽しむ上で“なぜサステナビリティが必要なのか?”という点を、より多くの消費者の皆さんに理解していただき、サステナビリティを推進している飲食店・レストランを選んでいただく、そしてそこに関わりサスティナビリティを推進する農家さんや漁師さん、サプライヤーや企業とのさらなる連携が生まれるように、フードシステム全体が持続可能な取り組みを行える良い循環を作っていきたいと考えています。」
評価やアワードを通して、現状の取り組みが見えてくる
フードシステムの改善が協会の使命だと語る、下田屋さん。イギリス本部から始まった活動は既に12,000店以上の飲食店・レストランなどのフードサービス業界に影響を与えているという。日本サステイナブル・レストラン協会が行う、具体的な取り組みについても伺った。
「レストランのサステナブルな活動がより高い水準に達するように、アドバイスや評価を通してサポートを行っています。レーティングについては、飲食店の食材調達や運営のサステナビリティをレーティングするプログラム『FOOD MADE GOOD』を展開しています。当協会のレーティングでは、約250問のチェックリストに加えて、レストランから必要な情報をいただいて評価をしています。『調達・社会・環境』の3つの観点を各10項目に分けて調査し、その総得点によってサステナビリティの推進状況がパーセンテージで示され、より推進がなされている場合には、1星から3つ星が付与されます。包括的な指標へ取り組みをすることにより、レストランの現状の取り組み度合いの可視化や、今後の目標設定や経営のさまざまな方針を検討するのに役立てていただくことができます。」
また、日本サステイナブル・レストラン協会ではレーティングプログラムの展開の他にも、2021年に日本としては初開催となるアワード「FOOD MADE GOOD Japan Awards」を主催。加盟レストランのなかでも、特に取り組みを推進し、レーティングにおいても高評価を得たレストランを、大賞と部門賞として表彰している。
「また同時に、サステナビリティに取り組む方々がお互いに仲間として繋がるためのオンライン・コミュニティも運営しています。サステナブルなお店づくりを望むシェフのなかには海外経験のある方も多いのですが、日本で他のシェフと特にサステナビリティに関する情報交換をしたくてもなかなか仲間が見つからないケースもあります。当協会では、同じ志を持つレストランやシェフ、企業の方々を繋ぎ、定期的な情報交換の場としてZoomを使ったオンラインでの月1回のコミュニティ・ミーティングや、グローバルと日本のシェフ同士で常時情報交換ができるオンラインのコミュニティも設けています。また日本各地での交流会やオンラインイベントなどを実施しています。」
直近のイベントとしては、2022年3月22日に「食の未来のために、プラスチック資源循環を考える」というテーマでウェビナーを開催。3月24日にも札幌で「飲食店・レストランのSDGs/サステナビリティとは?」というテーマで会場とオンラインでのハイブリッド・セミナーを開催するなど、積極的な発信と交流の場を設けている。また、5月15日には日本サステイナブル・レストラン協会の企画協力で、ザ・キャピトルホテル東急と、同協会のプロジェクト・アドバイザー・シェフである杉浦氏によるイベント「サステナブル テーブル」の第1章が開催予定だ。
お店だけでない、多様な関わり方が行動につながる
現在、日本では27店舗(2022年4月現在)の飲食店がメンバーとして加盟している。どのようなお店や人々が参加しているのだろうか。
「フレンチやイタリアン、和食などさまざまなジャンルのお店が加盟しています。それぞれのお店のサステナブルな活動の進捗具合も実に様々です。加盟店の方々からは『横のつながりが増え、情報や意見交換ができるようになった』『今まで独自で進めてきた取り組みが正しいかどうかを知ることができた』『今後進めていくべきことが分かった』といったお声をいただいています。」
また、さらなる活動の促進を図るため、多様なメンバーシップを展開しており、レストランだけでなく企業パートナーやサプライヤーメンバー、生活者が個人として活動に参加するFOOD MADE GOODアンバサダーの参加も募っているという。
「企業パートナーの方々とは、それぞれの企業の特色を活かしてアイデアを出し合い、幅広いネットワークを活用し、外食産業に積極的に参画することで、具体的な変化をもたらす可能性を広げています。サプライヤーメンバーの方々とは、より良い食の選択や調達を促進するための働きかけを行なっています。個人メンバーの方々には、加盟店を訪問して情報を拡散したり、サステナビリティの正しい情報を伝えていくインフルエンサーとして活動していただいたりしております。お店や組織として加盟するのはハードルが高くても『自分たちにできることはないか?』『まずは個人で参加してみよう』と参加している方々もいらっしゃいます。」
サステナビリティを文化に。より地域に密着した活動へ
2020年の活動開始以来、新型コロナウイルスの影響を受けながらも、オンラインを駆使したイベントや交流会、メディアでの発信を積極的に行なってきた日本サステイナブル・レストラン協会。下田屋さんへ今後の活動や目指す姿についても伺った。
「WITHコロナ時代となり、そのなかでどのように活動を進めていくかが重要となります。今後はより地域に密着した活動も展開していきたいと考えています。できる限りいろいろな方々と直接お会いし、同時に現地とオンラインでのハイブリッドによる交流など、状況を見極めつつ進めていきます。既に、各地の団体の方々とも連携しつつ活動を始めています。また、最近は地方の自治体や団体の方々からのお声がけも増えています。様々なメディアでSDGsが多く取り上げられ、急速にサスティナビリティに注目が集まっていますが、一過性のムーブメントとしてではなく“地域に根付く文化”として定着していくよう、取り組んでいきたいと思っています。」
編集後記
消費者のサステナブルに関する行動について、マーケティングリサーチ会社・株式会社インテージが2022年3月に公開した調査によると、SDGs認知者の約53%が「SDGsに取組む企業を応援したい」、約45%が「SDGs関連商品・サービスを購入・利用したい」と回答している。消費者一人一人の意識が高まるなか、多くの飲食店がサステナブルなお店づくりに向けて舵を切りつつある。
まずは小さなことでも始めてみることが重要ではあるが、単独で取り組むことで活動の正確性や進捗度合いが見えづらくなってしまう場合も多い。17の世界的目標、169の達成基準、232の指標からなるSDGsも、一つの項目を達成するために他の項目に悪影響を及ぼしていないか、包括的に取り組む必要があるとされている。今回お話を伺った日本サステイナブル・レストラン協会のような、グローバルな視点や知識を持つプロフェッショナルと共に取り組み、志を同じくする仲間と交流することで、今後のレストランのあるべき姿が見えてくるのではないだろうか。
【参照サイト】 日本サステイナブル・レストラン協会
【参照サイト】 博報堂「生活者のサステナブル購買行動調査2021」
【参照サイト】 【ザ・キャピトルホテル 東急】食で地球の未来を拓く「サステナブル テーブル」