世界中で海洋プラスチックが問題になっている。日本でも2021年3月に「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律案」が閣議決定された。使い捨てのプラスチックストローやカトラリーなどを消費者に無償で提供する飲食店などに対し、消費者に必要性を確認する、または有料化するなどの措置を講ずるための判断基準を策定している。この基準を守らない店舗には改善を促す勧告や命令、50万円以下の罰金を科す場合もある。

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こうした脱プラスチックの動きが加速する中で、プラスチックストローの代替品となる、サステナブルなストローの開発が進んでいる。世間では、使い捨ての紙ストローや繰り返し使用できるステンレス製ストローをよく目にするようになった。今回は、新たな代替素材として、陶磁器製美濃焼ストロー「MYSTRO(マイストロ)」を紹介したい。2019年12月に発売してから、およそ1年半で7,500本以上売り上げているという。

MYSTROを開発した株式会社カネスの酒井英臣さんに話を伺った。

開発のきっかけは、紙ストローの使いづらさ

「紙ストローはすぐにふやけてしまって飲みづらい。陶磁器製ストローを作ってみたらどうか」2019年の春頃に、取引先からそんな言葉をかけられたことが開発にいたったきっかけだ。海洋プラスチック問題が注目を集め、飲食店はプラスチックストローをやめ、紙ストローやステンレス製ストローを導入し始めた時期だった。

「取引先に声をかけていただいた時、最初は話を断りました。陶磁器製ストローを作る際、材料をかなり薄く伸ばさなければならず、『作っている途中で割れてしまうだろう』『陶磁器製ストローを作るなんて無茶だ』と思ったからです。ただ、以前ウミガメの鼻の穴にプラスチックのストローが突き刺さった写真を見てから、何か自分にできることをしなければと思っていましたし、当時陶磁器製ストローを作っている人がいなかったため、誰もいないからこそ自分が挑戦しようと思い直し、陶磁器製ストローを作ることを決意しました」と酒井さんは話す。

株式会社カネスの酒井英臣さん

苦心の末、半年の開発期間を経て発売へ

酒井さんの予想通り、陶磁器製ストローの開発にはかなり苦戦した。製造工程は通常の陶磁器と同じだ。土などの材料を成型し、素焼きする。冷ましてから絵付けをし、釉薬を施して乾燥させ、本焼きして完成だ。しかし、ストローは使い心地を考えると1mm以下の薄さにしなければならず、陶磁器の食器と比べてかなり薄い。素焼きの際に割れないように材料の配合を変えると、強度が十分でなかったり、ぐにゃぐにゃと曲がったりしてしまったという。幾度となく失敗を繰り返し、ようやく完成したのは、およそ半年後の2019年秋。「MYSTRO」という名称で同年12月に発売し、1年半で7,500本以上売り上げた。

絵付け中のMYSTRO

「個人のお客様はプレゼント用にご購入されることが多く、また企業様向けではノベルティ用に数百本単位でご購入頂くケースが多いですね。オリジナルデザインにも対応でき、ご要望に応じて企業のロゴを入れたストローをお作りするなどしています。」

冷たいドリンクの「冷たさ」がより伝わる

紙ストローやステンレス製ストローと同様、MYSTROにもメリットとデメリットはある。メリットは、何度も繰り返し使用できることや、紙のようにふやけることなく丈夫なことだ。ステンレス製ストローで懸念されるような金属臭や金属アレルギーの心配もない。また、熱伝導性が高く、冷たいドリンクを冷たいまま美味しく飲めるという。「アイスコーヒーにMYSTROを差すと、アイスコーヒーを吸わずにMYSTROを口にくわえるだけで冷たさが伝わってくるくらい、あっという間にMYSTROも冷たくなります」

アイスコーヒーをMYSTROで飲むとひんやり美味しいと評判だ。

一方、デメリットは、陶磁器製のため割れるおそれがあることだ。小さな子どもやストローを噛む癖がある人にはおすすめできないという。また、プラスチックストローや紙ストローなど、他のストローと比較すると価格が高い点もデメリットとして挙げられる。

他にも、飲食店などで大量にMYSTROを導入するとなると、洗う手間がかかるが、酒井さんは「MYSTROを導入されたカフェでは、漂白剤に浸けて置いておくと、1本ずつ丁寧に洗わなくても問題なく汚れが取れると聞きました」という。使い捨てストローよりは不便だが、環境面の影響を考慮すると、デメリットとして挙げるほどではないのかもしれない。

今後の課題は、飲食店での普及を目指したビジネスモデルの構築

いくら環境に良くても、人はどうしても価格の安い製品を選んでしまいがちだ。プラスチックストローや紙ストローの「安すぎる」価格に、どう対抗していくのだろうか。

「カフェなどの飲食店に卸す際、プラスチックストローは1本数円以下ですが、MYSTROは1本あたりの単価が高く、どう考えても価格面で太刀打ちできません。そこで、ストローに広告を入れ、広告料をもらうことで飲食店に無料でストローを卸せるのではないか。そんなアイデアを考えています」

MYSTROの直径は6~7mm程度だが、側面に1文字4~5mmの大きさの文字を入れられるという。技術面では十分実現可能なアイデアだ。他にも価格を下げる方法として、製造工程の中の「絵付け」を省くことでコストを抑えることも考えているという。

「『サステナビリティ』をキーワードに、社会全体が大きく転換することを求められています。一気に変えることは難しいため、まずは企業の意識の変化が転換に向けた第一歩になると思います。私たちがつくるMYSTROはひとつのアイテムにすぎないかもしれませんが、その一歩を踏み出すきっかけになったら嬉しいですね。」

取材後記

陶磁器製ストローは、私たちにまた新たな選択肢をもたらしてくれる。もちろん、プラスチックストローや紙ストローと同様、それぞれにメリットとデメリットはある。しかし、それを踏まえた上で何を選択していくのか。一人ひとりの意識や判断にゆだねられている。

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