難民のつくる木製食器「MUUT」。ものづくりの達成感を、困難を乗り越える自信に

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2021年から続くロシア・ウクライナ危機や、2023年4月に激化したスーダン紛争をきっかけに、日本でもさまざまなメディアで難民についての問題が報じられている。

国連UNHCR協会の公式サイトによると、迫害や紛争、人権侵害などにより故郷を追われた人の数は2022年末時点で約 1億840万 人 にものぼるという。世界の74人に1人にあたる、世界の1%以上の人が故郷を追われている計算になる。

また、難民を受け入れている国のほとんどが中低所得国にあたり、自国民の雇用が安定していないなかで難民の雇用を確保することはとても困難なことだ。多くの難民を受け入れているヨルダンの場合、ヨルダン国民の失業率はすでに約20~23パーセントに達している。シリアからの難民の失業率はさらに高く、ヨルダン国民のほぼ2倍にもなる。難民キャンプ外で暮らすシリア難民の約78%が貧困線以下で暮らしているという、厳しい現実がある。

最近では多くの飲食店やホテルが、食品ロスや使い捨てプラスチックの削減、省エネなどのサステナビリティに取り組んでいるが、難民の支援に取り組んでいる事例はまだ少ないのではないだろうか。

今回のインタビューでは、中東に住む難民に仕事を届けることを目指す木製食器ブランド「MUUT(ミュート)」を展開する「株式会社qaraq」代表・大橋希さんにお話を伺った。

「平和の象徴」オリーブを使い、長く使える商品を

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オリーブを使ったMUUTの食器は、中東ヨルダンの首都、アンマンにある自社工房で作られている。全ての工程を一つひとつ手作りで行うため、それぞれの違いを持つ温かみのある仕上がりが特徴だ。

現在、MUUTの工房ではシリアとイラクからの難民を含む5人が働いており、木の仕入れから商品の仕上げまで全て自社工房で行なっている。材料となる木材は、オリーブ農家が多く集まる北部から、実が成らなくなった古木や剪定によって切られたオリーブの丸太を使用しているという。

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大橋さん「ゆっくりと時間をかけて育つオリーブの木は、密度が高いため、硬くて丈夫です。オリーブならではのユニークな木目も特徴です。ただ、木という性質上どうしても、使用しているうちに歪みが出てきてしまいます。MUUTの食器は、そうした歪みを最小限に抑えるため、材料の見極めや仕上げの磨きを丁寧に行うことにこだわっています。

工房では変色を防ぐためオイルとみつろうでコーティングをして仕上げていますが、変色が気になってきた場合は、お客さまご自身でオリーブオイルを塗っていただけると風合いが戻ります。使い方次第では何十年もご使用いただけます。

難民の人に、将来に生きる術を身につけてほしい

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ヨルダンの工房にて、MUUTのスタッフと大橋さん(右側)

大橋さんによると、MUUTでの難民の就労はものをつくって賃金を得るだけでなく、さまざまな意味合いを持つのだという。

大橋さん「難民は多くの苦労を経験してきたため根気強い人が多いのですが、混乱した状況で生きるなかで、働いた経験がない人もいます。日本人には当たり前のことかもしれませんが、決まった時間に決まったことをする、問題が起きたら放っておかずにその都度解決する、といった『働くこと』自体を経験し、身につけてもらいたいと思っています。」

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「今後の情勢によっては、難民としてさらに別に国へ行かざるを得ないこともあるかもしれません。自分の国に戻ることや、そのままヨルダンに残る可能性もあります。木工の技術はもちろん、どのような場合でも、『働くこと』を知っていれば、今後の生活に役立つでしょう。」

ものづくりの達成感を、自信を取り戻すきっかけに

さらに大橋さんは、難民の人たちにとって、ものづくり満足感や達成感を得ることが自信を取り戻すための重要なきっかけにもなると感じている。

大橋さん「働くためだけにMUUTに来てもらうのではなく、難民の人が『自分のままでいられる居場所』を作りたいんです。

難民は母国で迫害や戦争というトラウマになるような経験をしています。工房で手を使い質の高い商品を作ることで、彼女ら、彼らが自信を取り戻し、明るい未来に向かって一歩を踏み出すきっかけにしてほしい。そして、自国ではない国でも社会の一員としての役割を担っていくことを目指しています。」

商品を通して、難民問題を身近に感じてほしい

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今回紹介した「MUUT(ミュート)」は、2021年のコロナ禍に立ち上がったばかりの新しいブランドだ。現在はポップアップストアやオンラインショップでの販売を行っている。「今後は少しずつアイテム展開を増やし、ホテルやレストランなどで多くの人に手に取っていただきたいと思っています。MUUTの商品を通して、難民の問題を身近なものとして感じていただければ。」と語る大橋さん。

国際協力NGOワールド・ビジョン・ジャパンによると2018年時点で、日本の難民の受け入れ数は先進国の中でも非常に少なく、日本が難民と認定した外国人はわずか42人だ。審査の仕組みが十分に整っていないうえ、貧しい難民が中東やアフリカから遠い島国である日本へ辿りつくのは難しい。

しかし、難民を受け入れることだけが支援ではない。難民のつくるMUUTの食器を通して支援するのも、ひとつの選択肢なのではないだろうか。

【参照サイト】 MUUT
【参照サイト】 国連UNHCR協会:数字で知る難民・国内避難民の事実
【参照サイト】 国際協力NGOワールド・ビジョン・ジャパン:民受け入れ国別ランキング【2018年統計】私たちの難民支援

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table source 編集部では、サステナビリティやサーキュラーエコノミー(循環経済)に取り組みたいレストランやホテル、食にまつわるお仕事をされている皆さまに向けて、国内外の最新ニュース、コラム、インタビュー取材記事などを発信しています。
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