世界中で問題となっている、プラスチック問題。クジラやウミガメの胃から大量のプラスチックごみが発見されたショッキングな写真を見たことがある人も多いのではないだろうか。日本でもレジ袋の有料化が開始されたほか、2021年3月にプラスチックごみの削減やリサイクル強化に向けた「プラスチック資源循環促進法案」が閣議決定され、2022年の施行が目指されている。使い捨てのストローやスプーンなどのプラスチック製品を多く提供する飲食店などの事業者に対して、新たな判断基準に基づく削減などを求めていくという。
脱プラスチックへの気運が高まる中、プラスチック問題に関連して近年注目を集めているのは、ホテルなどの宿泊業界だ。従来、ホテルのアメニティは宿泊客が変わるたびに廃棄されるほか、安価なプラスチック製のものが多く採用されており、地球環境に大きな負荷をかけてきたためだ。世界中で1年間に廃棄されるプラスチック製歯ブラシの量は、約36億本にのぼるという。すべての歯ブラシがホテルで利用されるわけではないが宿泊客が変わるたびに使い捨てられるため、年間の歯ブラシの廃棄量のうちホテルで捨てられるものが相当数を占めると考えられる。
こうした状況下で、「ホテルのアメニティに革命を起こしたい」と意気込むのは、株式会社豊和の山本美代さん。同社は高度経済成長期に山本さんの母親が創業し、ホテル・レストランの店舗設計や消耗品の卸売などを手がけてきた会社だ。プラスチック消耗品の販売もしてきた同社だが、2代目の山本さんは2017年にDiNiNG+という事業を立ち上げ、竹歯ブラシや竹綿棒、竹ヘアコームなど環境にやさしい商品の開発に取り組んでいる。
今回は山本さんに、竹歯ブラシの開発経緯や今後の展望についてお話を伺った。
きっかけは、出張先のホテルにあった1本の歯ブラシ
山本さんが竹歯ブラシの開発を始めたのは、約3年前にホテルに宿泊した際にアメニティであるプラスチック製の歯ブラシがふと目に留まったことがきっかけだった。家業がプラスチック消耗品の卸売を手がけてきたこともあり、「世界中のホテルで、毎日アメニティが捨てられ続けている。脱プラスチックに向けて何かしなければ」と使命感に駆られた。
すぐに開発に向けて動き出した山本さんは、当初は日本の竹を使うことを試みたという。しかし、日本の竹は適切に管理されていない場所が多く、価格が割高というハードルもあり、歯ブラシの材料として用いるのは困難だった。竹は成長が早く、材料として用いるには生え始めて約3-4年目程度までの竹が適していると言われているそうで、それ以上育ちすぎてしまうと、竹としては適さないそうだ。そのため、竹の年齢の管理は重要なのだ。そこで、山本さんは中国の工場で竹歯ブラシを製造することに決めた。中国の竹は管理が行き届いており、歯ブラシの材料に適していたのだ。現在は中国の竹を調達しているが、「今後は日本の竹でも作れたら」と山本さんは話す。
現在、竹歯ブラシのほかに竹綿棒と竹ヘアコームを製造・販売している。竹綿棒は、芯の部分に竹を使用する。竹独特のしなやかな強度があり、使い心地の良さが感じられるという。スライド式のパッケージに格納され、竹綿棒を使い終わった後も小物入れとして使うことができる。竹ヘアコームは、縦13センチ、横3センチと小ぶりで、持ち運びやすいサイズだ。竹はプラスチックと比較して静電気が起きにくく、キューティクルを守りながらブラッシングできるという。
製造する上でのこだわりは、安全性と使いやすさ
竹歯ブラシを製造する上で最も重視しているのは、安全性だ。中国の工場で製造されて日本に送られてきた後、すべて手作業で検品するという。歯ブラシは口の中に入れて使用するため、些細な欠陥でも怪我をするおそれがあり、安全性には細心の注意を払う。
また、使いやすさにもこだわりを見せる。竹歯ブラシは竹を削って作られるが、削る際の厚みは5mmが限界でそれ以上削ると竹が割れてしまうのだという。「現在、竹歯ブラシが多く出回るようになってきていますが、ほとんどが欧米をはじめとした海外向けです。欧米の人々は日本人と比較して平均的に口腔サイズが大きく歯の矯正文化が広く普及しているため、竹歯ブラシの柄やブラシ部分が太くても違和感はないようです。一方でそれらの竹歯ブラシを日本人が使用すると歯茎に当たるなど磨きづらさを感じるようです。MiYO-organic-の竹歯ブラシはヘッドの大きさをコンパクトに設計し、日本人でも磨きやすいように考慮しています。」
使いやすさの他にも、随所にこだわりが感じられる。例えば、竹歯ブラシのパッケージにはプラスチックを使わず、日本の放置竹林を活用した「竹紙」を採用している。また、他社製の竹歯ブラシは1本600円~800円程度だが、MiYO-organic-はその半額程度だ。価格をぎりぎりまで抑えるための企業努力は惜しまない。
「輸送方法や歯ブラシのパッケージを割り箸の箸袋の金型を採用しすることで、見えない部分のコストを削っています。利幅は大きくはありませんが、手に取ってもらいやすい価格帯に設定することで、脱プラスチックへのアクションを一人でも多くの人がとることができるようにすることを重視しています。」
また、竹歯ブラシの注意点として、自然素材であるため「風当たりのいい所に置く」「お風呂場など湿気の多い所での使用や保管は避ける」など対策の必要はある。耐久性について疑問が残るかもしれないが、歯科医師協会によれば、プラスチック製の歯ブラシであっても1か月に1度は雑菌予防のために取り換えるべきだと言われており、竹歯ブラシも同様だ。1か月に1度のスパンで取り換えるものだからこそ、環境負荷の低い歯ブラシを選択して欲しい。
ホテルでの体験から、サステナブルな日常へつなげたい
現在、山本さんは歯磨き粉の開発にも着手している。通常、歯磨き粉はプラスチック製の容器に入っており、歯磨き粉本体には海洋汚染の原因の一つであるマイクロビーズが含まれるものも多い。また、ホテルのアメニティとして置かれている歯磨き粉は小さな容器に入っているものの、一度で使い切れる量ではなく、中身がまだ入ったままホテルに置いて帰る人も多い。その点に着目し、一度で使い切れ、マイクロビーズを含まない歯磨き粉ならぬ歯磨きシートを開発中だ。紙石鹸をイメージすると分かりやすいだろうか。
「紙石鹸の技術は、江戸時代から続く日本の伝統技術です。それを歯磨き粉で実現し、日本の伝統技術を活かしたサステナブルな製品として世界へ発信したいと考えています。」
歯磨き粉だけでなく、発売中の歯ブラシより小さなサイズの歯ブラシも開発中だ。ジェンダーや大人子供関係なく使えるよう、「ミニ」と名づける予定だという。
最後に、山本さんが今後目指したい社会について伺った。
「ホテルのアメニティを通してサステナブルな製品を広める『ホテル・アメニティ革命』を起こしたいです。ホテルは、人々の日常につながる場です。ホテルに宿泊した際に竹歯ブラシなどのサステナブルなアメニティを使い、一回で使い捨てずに持って帰ってもらう。使い捨てずに長く使い続けることの居心地の良さに気づき、もしかしたらその人の日常が変わるかもしれません。また、サステナブルな日用品を使うことで、自己肯定感が高まる側面もあると思います。大げさに聞こえるかもしれませんが、サステナブルな日用品を通してその人の人生のターニングポイントになれたらと思っています。そして、セレクトショップなど特別なお店でしか購入できないのではなく、ドラッグストアなど、誰もが手に取りやすい場所に置かれるようになり、価格を含め、人々がサステナブルな製品を選択しやすい世の中にしていきたいです。」
取材後記
ホテルのアメニティを起点としてサステナブルな製品を広めたいと挑戦し続ける山本さんのお話の端々から伺えたのは、脱プラスチックへの使命感を強く持ちつつも、楽しくポジティブに社会を変えていきたいという姿勢だった。また、単にサステナブルな製品を開発するのではなく、「自分にできることは何か」という問いと真摯に向き合い続け、サステナブルかつ日本の伝統技術や強みを活かした製品を開発されている様子も強く印象に残った。
今年に入り、ホテルからの問い合わせが急激に増えているという。こだわりの強い、ラグジュアリーなホテルからの問い合わせが多い。「より多くの人にサステナブルなアメニティを使ってもらうことで、サステナブルな製品を広めたい」と考える山本さんの目指す先には、ビジネスホテルを含めたあらゆるホテルでサステナブルなアメニティの導入がある。どのホテルに泊まっても、サステナブルなアメニティが使える、またはオプションとして選択できるような社会になることを期待したい。
NIKKO Sustainable Selection のご案内
NIKKOでは、サステナビリティやサーキュラーエコノミーの取り組みを強化したいレストラン・ホテルの皆さまに向けて、自社のサステナビリティ活動の現状評価から社内浸透、サステナビリティ・サーキュラー調達、PRにいたるまでワンストップのソリューションを提供しています。
調達においては、国内外から「サステナビリティ」の視点で厳選した食器やアメニティ類を集めた「NIKKO Sustainable Selection」の提供により、お客様のサステナビリティ調達を支援します。「MiYO-organic-」にご興味をお持ちの方はぜひお問い合わせください。