今、日本では「17歳以下のこどものうち7人に1人」「ひとり親世帯の2人に1人」が相対的貧困の状態にあると言われている。内閣府によると、日本全体の子供の相対的貧困率は、世界の先進国が加盟する国際機関「OECD(経済協力開発機構)」の平均を上回る水準であり、ひとり親世帯ではOECD加盟国のなかで最も高い水準だという。

子供の貧困は、食生活の偏りによる「栄養不足」や、両親が働いているため一人で食事をしなくてはならない「孤食」などの問題に繋がり、心身の成長だけでなく、学力や社会性、協調性などさまざまな能力の発育を妨げることが問題視されている。SDGsの目標1「貧困をなくそう」、目標2「飢餓をなくそう」、目標3「すべての人に健康と福祉を」とも深く関連しており、こうした問題をそれぞれの家庭や個人の責任にせず、社会全体で取り組んでいくことが重要だといえる。

そうしたなか、子供の貧困問題の改善を目指して「こども食堂」への支援に取り組んでいるのが、日用品や電化製品のメーカーとしても知られる「アイリスオーヤマ株式会社」だ。今回のインタビューでは、「次世代の育成」に真摯に取り組む同社を代表して、広報室でPRとSDGs推進活動を担う鈴木幸江さんに、こども食堂の支援を始めた背景や今後の展望についてお話を伺った。

目次

被災地支援をきっかけに、食品事業へ参入

鈴木さん「宮城県仙台市に本社を置くアイリスオーヤマは、地元企業として東日本大震災の被災地復興に貢献したいと考え、被害を受けた東北の農家を支援するため、2013年に食品市場へ参入しました。買い取ったお米をアイリスグループの工場で精米し、小分けの生鮮米やパックごはんに加工して販売しています。食品事業を展開するなかで、地域のこども達の健やかな成長を支えたいという想いと食品ロスを削減したいという考えが重なったことが、こども食堂への支援を始めたきっかけでした。」

ゆくゆくは全国へ。長期的な支援を目指して

計画当初から、「ゆくゆくは宮城県だけでなく、各地域にある自社工場から全国各地のこども食堂に食材を届けたい」と考えていた同社。全国各地のこども食堂とつながりがあり、長期的に安定した支援ができるパートナーとして、認定NPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」と提携を結んだ。

鈴木さん「2022年7月から、宮城県内の子ども食堂への出荷が始まりました。お米以外にも餅や飲料水、ドライフルーツなど、当社が製造・販売する食品を納品し、むすびえを通じてこども食堂に配布しました。7月以降も宮城県内のこども食堂のうち、欲しいという声があった施設に月に1度配送しています。初回の出荷分では、宮城県内の32ヶ所の子ども食堂に約4500点、売価にして約100万円分の食品を寄贈しました。現在は当初よりも提供できる食品の量が増え、より多くの食品を寄贈できるようになりました。」

こども食堂の抱える、食材・人材不足

「全国こども食堂支援センター・むすびえ」によると、2016年に316箇所だった全国のこども食堂は、2019年には3700箇所以上になり3年間で10倍以上に増加した。現在では年間100万人以上がこども食堂を利用しており、近年急速に広がりを見せている。一方で、利用者の数が増えるほど、食材調達などにかかる運営資金の不足が大きな課題になっている。実際に資金不足によって開設から4ヶ月で廃止となった事例もあり、こども食堂の運営に欠かせない「食材」の需要が高まっている。

また、運営資金や食材の不足に加えて「人手不足」もこども食堂が抱える大きな問題の1つに挙げられる。そうしたなかで同社が寄贈した食品は、パックごはんやおもち、スープや飲料水など、調理が簡単なものが多い点でも喜ばれているという。

積極的な支援が、社員の共感につながる

鈴木さん「こども食堂への支援については、社内報などを通じて全社的に発信しています。社員からは、『子どもの健やかな成長を応援できて嬉しい』など、部署を超えてさまざまな好意的な反応がありました。子ども食堂をはじめ、地域貢献に積極的に取り組む自社の姿勢を誇りに思い、好きな点として挙げる社員も多いです。こうした取り組みを推進することで、社員のロイヤルティの向上にもつながっていると感じます。」

アイリスオーヤマのように、企業が積極的に社会貢献を推進することで、支援先への貢献はもちろん、自社への愛着や共感、団結力の向上といった「働きがいのある職場づくり」にも貢献しているようだ。

実体験を通じ、食に関する学びの機会をつくりたい

鈴木さん「こども食堂への支援を全国的に展開していくことはもちろんですが、一方的に食品を渡すだけではなく“食育の場”として交流のできる機会を設けていきたいと考えています。東日本大震災で深刻な被害を受けた東北農業の営農再開を目指す取り組みの1つとして、福島県浪江町で田植えや稲刈り作業を実施した際には、社長をはじめ多くの社員や社員の家族が参加しました。日頃の生活や業務では味わえない作業に皆で取り組み、とても思い出深い体験になりました。今後むすびえにも協力してもらいながら、こども食堂の子供たちへの食育企画としてもこうした活動を広げ、生産に関わるという実体験を通じて食に関する学びの機会を提供したいと考えています。」

地域貢献のなかでも、次世代への支援や育成には特に力を入れているアイリスオーヤマ。こども食堂への支援のほかにも、地元企業が協賛し小中学生にむけて、経済がどのように回っているのか、会社や社会の仕組みを教える仙台市主催の体験型経済教育プログラム「スチューデント・シティ」にも積極的に参加している。

アイリスオーヤマの考える「企業のあるべき姿」とは

鈴木さん「一方的に商品やサービスを提供するのではなく、地域と企業が共に成長していけるような相互的で持続可能な関係性を目指しています。これまでその時々の社会・環境問題に紐付いた事業を展開してきましたが、今後も常に変化し続ける社会課題に対して真摯に向き合い、適切なアクションを起こすことで活動の幅を広げていきたいです。」

アイリスオーヤマでは、家電から食品まで幅広く事業を展開しているが、ほとんどの事業は、あらゆる社会問題の解決に貢献することを目的に立ち上げたものだという。東日本大震災の被災地支援をきっかけに参入した食品市場の他にも、2008年のリーマンショックの際には、大手家電機器メーカー出身の技術者を雇用し、彼らの技術力を活かして家電市場に参入した。

「その時々の社会の問題に対して率先して行動を起こすことで、課題解決に貢献していきたいという会社の想いは、経営陣だけでなく社員みんなが感じていることだと思います。」と話す鈴木さん。「ユーザーイン発想」を経営理念に掲げ、生活者視点のものづくりに取り組むなかで、“消費者や社会が本当に必要としているものは何か”を常に考えてきた結果が、必然的に社会・環境問題解決への貢献に繋がっている。

編集後記

「アイリスオーヤマ株式会社」は、お客さまと真摯に向き合い社会のニーズを的確に汲み取ることで、社会・環境問題の解決に貢献してきた。なかでも、同社が取り組む「次世代の育成」は、未来のお客さまになり得る大切な存在への支援とも言える。個人が始めるには難しい取り組みでも、ホテルやレストランなどの「お店」や「企業」が取り組むことで実現することがあるのではないだろうか。社会貢献に取り組んでいる企業の食材を調達する、というのもひとつの方法だ。率先してこうした取り組みの輪を広げていくことで、持続可能な食の未来を創造することにもつながるだろう。

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