近年、カーボンニュートラルや、脱炭素社会実現への意識が高まっている。2021年3月19日に、内閣府が公開した「気候変動に関わる世論調査」では、「脱炭素社会」の実現に向け、一人一人が二酸化炭素などの排出を減らす取組について、どのように考えるか”という質問に対し、「取り組みたい」と回答した人は91.9%にのぼった。
一方で「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)」の発表によると、食品の生産、加工、流通、調理、消費に関連するすべての要素と活動をまとめたフードシステムから発生する温室効果ガスは、人為的な温室効果ガス排出量全体のうち最大37%を占めるという。飲食店では日々多くの二酸化炭素が排出されており、なかでも近年では厨房で使われているガスや電気などのエネルギーによる二酸化炭素排出量が問題視されている。
こうした状況下で、「世界の飲食シーンから二酸化炭素をなくすこと」を目指し、水素エネルギー社会の実現に向けて水素コンロの普及啓発に尽力しているのが「株式会社H2&DX社会研究所」だ。同社は、水素燃焼の活用によって二酸化炭素を排出せずに調理を行う「水素コンロ」の開発に成功し、2022年8月30日、事業者向けに販売を開始したと発表した。今回のインタビューでは脱炭素社会の実現や地球温暖化対策に真摯に取り組む、代表の福田峰之氏に水素コンロの開発の経緯や特徴、今後の展望についてお話を伺った。
話者プロフィール:福田 峰之氏
立教大学卒業後、横浜市会議員、衆議院議員、内閣府副大臣(IT・科学技術)を経て、現在は多摩大学ルール形成戦略研究所客員教授と株式会社H2&DX社会研究所 代表取締役CEOを兼務。衆議院議員時代は、IT&DX、水素エネルギー、再生可能エネルギー施策づくりの実務責任者を務めた。株式会社H2&DX社会研究所では、水素燃料電池を活用しての音質の優れたコンサートや水素燃焼による食材が美味しくなる調理手法等、カーボンニュートラルに向けた新たなビジネスモデルを構築し、水素を5感に伝えるサービスを提供することで水素社会への理解促進に努めている。
「水素コンロ」開発の経緯
福田氏「水素コンロの開発のきっかけは、多摩大学ルール形成戦略研究所の研究会で水素の利活用に関する研究をしていたことです。研究会では、水素燃料電池から生み出された電気を使用した音楽イベントの企画・サポートなど、水素エネルギーの実用化に向けたさまざまな施策を実施しました。そうした活動の一環として、2016年ごろから水素調理の研究に取り組み、神奈川県・藤沢のイタリアンレストラン『リベロ』での実証をサポートしてきました。実証では、水素調理をサポートするだけでなく、より多くの二酸化炭素を削減できるよう店舗運営のサポートも行いました。水素コンロはあくまで手段の1つであり、我々の本来の目的は、世界の飲食シーンから二酸化炭素をなくすことです。」
2021年、研究会から独立し「株式会社H2&DX社会研究所」を設立した際には、単に機械を売るだけでなく、飲食店がカーボンニュートラルの実現に向けて総括的に取り組むためのサポートもできるよう、“コンサル事業者”という業態を選択したのだという。
脱炭素社会の実現に貢献し、食材本体の美味しさを保持する「水素コンロ」とは
水素調理とは、専用の調理機器で水素を二酸化炭素の発生なく燃焼させて食材を調理する新しい方法。水素は燃焼温度が高く、無臭であることが特徴だ。
福田氏「ガスや炭、薪などを用いた従来の調理手法では、燃料の匂いが食材に付着しますが、水素調理ではそういった匂いが一切つかないため食材本来の香りを保持することができます。また、燃焼の際には水素(H₂)と空気中に存在する酸素(O)が結合し、水(H₂O)をつくることで燃焼部周辺の湿度を引き上げます。そのため、蒸し料理のように内側の水分や脂を保つことができ、外側はカリカリに、内側はジューシーに焼き上げることができます。
さらに、水素は燃焼効率が良いため、従来の調理手法よりも火の通りが早く時短にもつながります。水素コンロの導入の際には初期工事が必要ですが、使用のために特別な資格などは不要です。ガスボンベの運搬に関してはガス会社の有資格者が行うため、扱い方はプロパンガスとほとんど変わりません。」
初体験の美味しさに反響「水素調理試食会」開催
福田氏「2022年8月に水素コンロの販売を開始して以来、ありがたいことに多くの反響をいただいています。そこで、2022年11月21日に水素コンロの導入を検討されている企業向けに水素調理試食会を開催しました。会場は神奈川県・小田原にある、水素ガスを扱う内田商事のラボ。試食会では、水素コンロで焼き上げた食材と液化石油ガス(LPガス)で焼き上げた食材を比較して食べてもらいました。皆さん『想像以上に美味しかった』『全然違う』と大変驚かれていました。試食会や実証を行っていたリベロに訪れたことがある人以外、水素で調理された食材を食べたことがある人はいないわけですから、未体験の状態です。実際に食べてもらって、違いを実感していただくことが水素調理の魅力が最も伝わる方法だと思いますので、ぜひ皆さんに1度食べてみていただきたいです。」
株式会社H2&DX社会研究所は、今後も月に1度の頻度で水素調理試食会を開催する予定だという。同社が牽引する「水素調理レストラン」は、日経トレンディ「2023年ヒット予測ランキング100」で6位にランクインするなど、多くの注目を集めている。水素調理試食会への参加を希望する企業や飲食業従事者は、こちらのページ(外部サイト)から問い合わせが可能だ。
「株式会社H2&DX社会研究所」が目指す、水素エネルギー社会実現へ
企業から一般家庭まで、まずは“食”に関わるあらゆる場所へと水素エネルギーを広め、水素コンロの販売だけでなく総括的なサポートに取り組みたいと考えている、H2&DX社会研究所。今後の目標は「2023年中に50カ所以上への水素コンロの導入を目指す」ことだ。
福田氏「現在、神奈川県・箱根強羅の高級旅館『円かの杜』への水素コンロの導入を計画している他、バーベキュー場への導入などのお話も進んでいます。また弊社は、ロックバンド『LUNA SEA』のライブでメンバーが使用する楽器への水素燃料電池による電源供給など、多岐にわたる分野において水素エネルギーの普及啓発に取り組んでいます。“安全に使う“ことを第一優先に、飲食に限らずその他の業界へも水素エネルギーの普及を推進するため、今後さまざまな企業とコラボレーションしていく予定です。『世界のあらゆるシーンから二酸化炭素を減らす』という目標の達成に少しずつでも近づきたいと考えています。」
編集後記
カーボンニュートラルの実現に向けて、近年「水素」に注目が集まっている。2020年10月に日本政府は「2050年カーボンニュートラル」を目指すことを宣言し、2021年4月には 2030年の温室効果ガス排出量を2013 年度比で 46%削減する目標を表明した。これに伴い、経済産業省は「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を掲げ、産業政策、エネルギー政策の両面から成長が期待される14の重要分野について実行計画を策定。この実行計画においても、水素を活用したエネルギー供給はカーボンニュートラルを実現するための重要事項として挙げられており、今後政府による水素エネルギーの普及推進も見込まれる。
今は「水素エネルギーの普及」といっても、まだまだ先の未来の話に感じる人の方が多いかもしれない。しかし、実際には今回紹介した水素コンロのように、着実に実用化が進んでいる。まだ世間の大半が水素で調理された料理を食べた経験がないなかで、二酸化炭素を排出しないだけでなく従来の調理法よりも食材本来の香りを味わうことができ、より美味しく焼き上げられるという点は、他にはない価値だといえる。「一度食べてみたい」と考えるお客さまも多いだろう。
こうした「サステナブルな調理」に注目し、飲食店におけるカーボンニュートラル実現に向けて先進的な取り組みを推進していくことは、環境意識の高い顧客層の獲得にもつながるのではないだろうか。
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【参照サイト】肉が一番ウマい、そしてエコ 水素調理レストランにシェフら熱視線
【参照サイト】ICPP:Climate Change and Land
【参照サイト】内閣府:気候変動に関する世論調査
【参照サイト】経済産業省:2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略
【参照サイト】H2&DX社会研究所 公式ホームページ