ホテルカンラ京都

近年、環境問題や社会課題に対する意識の高まりを受け、多くの企業や団体が持続可能な社会の実現に向けて本格的に動き始めている。
一人ひとりが自分にできることから取り組むことは重要な第一歩であるものの、個々の活動にはアイデアの幅や実現性に限界を感じる人も少なくない。加えて、進捗や成果が見えづらくなるという課題もあり、情報の透明性が強く求められる現在では、意図せず「グリーンウォッシュ」と受け取られるリスクもある。

こうしたなかで注目されているのが、地域コミュニティを軸とした共創の取り組みだ。地域との連携を通じて多様な人々が関わることで、活動の透明性や信頼性が高まるだけでなく、異なる立場や業種の知見が交わることで、より効果的かつ継続的なアクションにつなげることができる。

今回のインタビューでは、地域で発足したコミュニティに加わり、フードロス削減をはじめとするさまざまな活動に取り組む「ホテル カンラ 京都」の総支配人(取材当時) 近藤直希(こんどう なおき)さんにお話を伺った。

地域とホテルのより良いかたちを求めて

ホテルカンラ京都

京都 東本願寺北の築23年の教育施設をコンバージョンし、2010年秋に誕生した「ホテル カンラ 京都」。「カンラ:感洛」には、日本が育んできた美・知恵・おもてなしが息づく「洛」の地でその心を「感」じてほしいという想いが込められているという。
2016年には39室の増床を行い、リニューアルオープン。 「継承と革新」をデザインコンセプトに、セレクトショップ、3つのレストラン、スパが新たにオープンし、全68室のホテルとして運営している。

近藤さん「実は以前から、地域とホテルの間のより良い関係性について考えていました。京都の人は京都のホテルに泊まる機会は少ないし、最近ではオーバーツーリズムの問題も深刻で、地域とホテルがよりよい形で共存するためには何が必要なのか――そう考えていたときに、明るい未来やより良い関係性をつなぐ鍵としてたどり着いたのが、『サステナビリティ』でした。」

はじめは、「サステナビリティやエシカルって何だろう?」「どんな取り組みを答えとするのか…」といった疑問や想いを、さまざまな関係者に向けて発信することから始めたそう。
そうした発信を通じて出会った人々とのつながりがきっかけとなり、2021年には京都で発足した、フードロス問題の解決に取り組む団体「Ethical Foodloss Alliance(エシカルフードロスアライアンス)」の立ち上げに参加することになった。

ホテルカンラ京都

業種を超えて、食品ロス削減に取り組む

近藤さん「エシカルフードロスアライアンスでは、同じ想いを持つ人たちが業界を越えて集まることで広がるアイデアを原動力に、京都から新たな取り組みを発信することをミッションとしています。立ち上がった時には5〜6社ほどの集まりでしたが、今では65団体が在籍して活動しています。発足時はコロナ禍のど真ん中で、本当に戦々恐々とする日々の中、生産者さんも事業者さんも地域の連携も、新しい局面であることは肌感で感じておりました。

月に1回開催される定例ミーティングを行いながら、何かしらの問題を抱え、廃棄目前となった商品や農作物をレスキューすることを実施しています。問題の背景は実に様々です。生産者さんから直接こちらの団体に相談いただくこともありますし、事業者さんを介して持ち上がることもしばしば。ミーティング以外のタイミングでも、グループLINEで誰かが『こんな食材が余ってしまって(キャンセルが出てしまって)…』と発信すると、別の誰かが『ぜひうちで使いたいです』と手を挙げて、それぞれ具体的な話が進んでいきます。

団体メンバーのひとり、サーキュラーエコノミー研究家の安居昭博(やすいあきひろ)さんや団体の仲間と話していくうちに、『ある一点から見るとそれはゴミになり、別の角度から見るとそれは資源になる』というふうに言語化されていきました。」

エシカルフードロスアライアンスでの活動を通し、実際にホテル カンラ 京都ではどのような取り組みを行ってきたのだろうか。近藤さんに、取り組み事例について伺った。

事例1- 無添加レモネードを作る時に出る、レモンピール

ホテルカンラ京都サステナビリティ

ホテル カンラ 京都の「kanra lounge(カンラ ラウンジ)」や「鉄板料理 花六(はなろく)」で提供している「Awake Lemonade(アウェイクレモネード)」は、広島県エビス農園さんの無人島で育てられたノンワックスの無農薬、無化学肥料のレモンを使用したレモネード。(※時期により仕入れ先変更の場合もある。)

近藤さん「事業者さんより、『レモネードシロップを作る時に大量のレモンピールを捨ててるんですよね。何かできないですかね?』と相談を受けました。まずは50キロぐらいだったかな?レモンピールをいただき、ホテル内で煮込んでピューレを作りました。それを、地域の焼き菓子屋さんやパン屋さん、和食屋さん、和菓子屋さん、コーヒー屋さんなどにお持ちしました。和菓子屋さんだとわらび餅のソース、パン屋さんだったらシュトーレンに入れたり、コーヒー屋さんだと焼き菓子にしたり…など皆さんに活用していただきました。
ホテル カンラ 京都では、京都府木津川市のクラフトビール醸造所『ことことビール』さんにご協力いただいてオリジナルビールを作成し、2024年9月より提供しています。この取り組みで100キロ以上のレモンピールをアップサイクルすることができました。」

事例2- 贈答用京菓子の規格から外れた、夏みかん

ホテルカンラ京都サステナビリティ

京菓子を作るために仕入れた夏みかんのなかには、品質に問題はなくても贈答用には適さない規格外品が一定数出てしまう。しかし、職人の作業時間や人手には限りがあり、そうした規格外品の活用にまで手が回らないのが現状だ。

近藤さん「ホテル カンラ 京都でこの夏みかんを引き取り、『鉄板料理 花六』の料理のソースやデザート、朝食のジャムやイベント時のかき氷として提供しました。
こうした規格外品は毎年発生してしまうものなので、私たちのホテルだけでなく、もっと色々な企業や人を募って商品化するなど、コンスタントに救済できる仕組みを作りたいと考えています。」

事例3- 東本願寺の庭園「渉成園」の梅

ホテルカンラ京都サステナビリティ

「渉成園(しょうせいえん)」は、東本願寺の飛地境内地の庭園。約1万6千坪の広大な敷地には数多くの梅の木が育っている。ホテル カンラ 京都では、その木々に実る梅を近隣の人たちと協力して収穫し、梅シロップに加工してモクテルやかき氷シロップとして提供。2023年と2024年で約100kgを収穫しているという。さらに2025年には約300キロの収量となり、近隣の事業者さま約10社、また近隣地域の住民の方でレスキューしている。

さらに、ホテル カンラ 京都のプライベートブランド商品として、梅と白餡、クリームチーズを使った羊羹も開発。この羊羹には、他にはないユニークな仕掛けがあるという。

近藤さん「この羊羹には、アンビエントミュージックの音源が付いています。『食』の一点だけではなく『音楽』の提供も加えることで、より食体験が面白くなるのでは?と考えました。音源の構成は、コア部分に癒しの周波数をおき、地域の音をレイヤーでかける仕組み。梅を収穫させていただいた渉成園内の音や、東本願寺境内の砂利道を歩く音、お堀の水の流れる音、木々が揺れる音などを取り入れております。羊羹に同封されたしおりのQRコードを読み込むことで再生できます。
お客さまが旅から帰った時に、『大切な人と一緒にこの羊羹を味わいながら音楽を聴き、ホテルや京都、日本での思い出を共有する…』そんな時間を過ごしていただけると嬉しいです。」

事例4- 使用済みの竹割箸

ホテルカンラ京都サステナビリティ

ホテル カンラ 京都のサステナブルな取り組みは、フードロスの削減以外にも及んでいる。
本館地下2階のダイニング「THE KITCHEN KANRA(ザ キッチン カンラ)」の朝食で使用された竹割箸を、京都発のアップサイクルメーカー「株式会社TerrUP(テラップ)」の協力を得て、案内POPにアップサイクルした。

近藤さん「かねてから、日々の朝食で捨てられる割り箸を何かに活用したいと思っていました。TerrUPさんのご協力をいただいて作成したQRコード付きの案内POPは、フロントロビーや全68室の客室に設置しています。
木・石・鉄・土・緑など自然の素材を取り入れたホテルの空間デザインにとてもよく合っていて、ゲストの方にも気づいていただきやすいものになったと思います。」

事例5- オリジナル刺繍のテーブルナフキン

ホテル内のレストラン「鉄板料理 花六(はなろく)」で使用しているのは、オリジナルのテーブルナフキン。
ホテル カンラ 京都を手掛ける「UDS株式会社」は以前、ベトナム・ホーチミンでストリートチルドレンのための施設立ち上げに携わっており、このテーブルナフキンには、施設の子どもたちによる刺繍が施されている。

近藤さん「施設の子どもたちの職業訓練も兼ねて刺繍依頼しているので、実際には指定のロゴから向きが違ったり、太さが揃ってなかったりするものもあります。普通はそうしたものは返品や交換してもらったりしますが、このナフキンに関しては、不揃いなところも含めてストーリーを伝えながらそのまま使用しています。
このナフキンを作ったのが2010年なので、もう15年間は共に過ごしています。2016年のホテル増床のタイミングでレストランも新しく作ったのですが、色々な想いが込められているので今も鉄板料理 花六で使用しています。『長く使い続ける』ことはデザインコンセプトの『継承と革新』に繋がる一部分だと思っております。」

まとめ

ホテルカンラ京都

写真:Nacasa & Partners

ホテルカンラ京都

写真:NORIYUKI YANO

いかがだっただろうか。近藤さんのお話を伺っていると、「フードロス削減」や「廃棄物の削減」といった成果の背景にある、人と人とのつながりや、それぞれの想いが共感を生み、それが行動となって形になっていく過程が伝わってくる。

近年では、資源を有効活用し、廃棄物を最小限に抑え循環させる経済モデル「サーキュラーエコノミー(循環経済)」の有用性に注目が集まっている一方で、各々の取り組みだけでは実現が難しいことも認識されつつある。

こうした取り組みを実現していくためには、ホテル カンラ 京都の事例に見られるように、多くの人や企業が関わり合いながら進めていくことが欠かせない。それは裏を返せば、関わる人それぞれに新たな役割が生まれ、それぞれの個性や強みを発揮できる機会が広がっていくことにもつながっている。

【参照サイト】ホテル カンラ 京都
【参照サイト】ホテル カンラ 京都 に、ホテル内で使用された竹割り箸を再利用し館内案内POPを導入しました

table source 編集部
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table source 編集部では、サステナビリティやサーキュラーエコノミー(循環経済)に取り組みたいレストランやホテル、食にまつわるお仕事をされている皆さまに向けて、国内外の最新ニュース、コラム、インタビュー取材記事などを発信しています。
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