国連が示す持続可能な開発目標(SDGs)では「誰一人取り残さない」を掲げている。そのアクションの一つとして、障害者雇用がある。2021年3月1日に改正された「障害者雇用促進法」では、法定雇用率2.3%の割合で障害者雇用の義務を課している。

内閣府によると、日本において障害者は936万人、そのうち知的障害のある方は108万人いるといわれている。身近に障害のある人がいなければ、接し方がわからなかったり、「障害があること」に対して可哀想だと感じたりする人もいるのではないだろうか。そうした「障害」に対する固定観念を覆し、知的障害のある人たちの描く絵にアートとしての価値を見出しながら、ビジネスとして成り立たせているのが株式会社ヘラルボニーだ。

今回は、そんなヘラルボニーの活動について、チーフ・クリエイティブ・オフィサーとして商品の開発に携わる佐々木春樹さんに話を伺った。

株式会社ヘラルボニー 佐々木春樹さん

「ヘラルボニー」という意味のなさない言葉

ヘラルボニー設立のルーツは代表である双子の松田兄弟に自閉症の兄がいたことにある。また、二人は知的障害のある人が「可哀想」と表現されることに強い疑問を抱くと同時に、並外れた豊かな感性や、研ぎ澄まされた集中力に可能性を感じていた。そうしたなか、知的障害のある人が描く絵に出会う。「魅力があっても誰かが世の中に出さなければ埋もれてしまう絵たちに、価値を見出したい」。そんな思いから。松田兄弟は会社を設立した。

子供時代、自閉症である兄のノートには「ヘラルボニー」という聞き慣れない言葉が記されていたそうだ。「ヘラルボニー」という言葉は社会にとっては意味のなさない言葉。しかし、本人にとってはなにか引っ掛かるところがあったのだろう。そして、一見意味のなさない言葉と知的障害のあるアーティストが描くアートを重ね合わせ、「ヘラルボニー」を社名とした。

アートとしての価値を高める緻密なブランディング

知的障害のあるアーティストが描いた作品は、美術教育を受けていない人が独学で描くアートとして、アール・ブリュット(生の芸術)やアウトサイダー・アートと呼ばれる。株式会社ヘラルボニーとしての所蔵作品は約2,000点で、アーティストが描いた作品を高解像度でデータ化してライセンスビジネスを行い、知的障害のあるアーティストの新しい収益を生み出している。一方で、アートを商品化して販売するブランド「HERALBONY」に使用される作品は20点ほど。ブランドとしての「HERALBONY」の世界観をつくる佐々木さんが、大事にしていることを語ってくれた。
「ひと目見てHERALBONYとわかるよう、商品化する作品は厳選しています。また、あくまでもアートが主体なので、アートが映えるようにプロダクト自体は丸、四角などのシンプルな形を選び、アートが棄損しないよう細心の注意を払います。プロダクトの中にアートがあるというより、生活に自然とアートが入り込むということを目指しているんです。

アートにはセールがありませんよね。HERALBONYの商品も消費財にならないよう、ハンカチやネクタイなど何年先も形が変わらないような普遍的なアイテムを選んでいます。また、サステナブルな企業や日本を代表するような会社とコラボレーションすることで、安全で高品質な商品として付加価値を高めることも重要です。」

実際に創作活動をするアーティスト

卵の殻をアップサイクルしたアートコースター

今回、NIKKO Sustainable Selection(※)に追加された卵の殻を再利用したアートコースターもmade in Japanの安全で安心な商品だ。マヨネーズ工場では大量の卵が使用され、これまで卵殻膜は化粧品の成分などに再利用されていたが、殻はその多くが捨てられていた。そうしたなか、そんな卵殻をリユースした壁材などを製造販売している日本エムテクス株式会社とヘラルボニーのコラボにより、アートコースターの商品化が実現した。
※table sourceでは環境や社会への配慮だけではなく、品質やストーリー性にも優れたおすすめの商品を紹介しています。

「ライフスタイル型の商品開発をしたいと考えていた中で、日本エムテクスさんと出会いました。卵の殻には小さな気泡があるため吸放湿性に優れていて、コースターの素材として機能的かつ安全でサステナブルです。また、美濃焼の技術と組み合わせているので吸水性もあり、made in Japanという付加価値もつけることができました。」

サステナブルが当たり前になることを目指して

サステナブルな商品というと、そうでないものと比べてどうしても価格が高くなってしまい、それゆえになかなか普及しないという課題がある。しかし、近年の生態系の変化や温暖化による気候変動など、地球環境の限界を誰もが身をもって感じているはずだ。そうした背景から、サステナブルなことが私たちにとっての標準になる必要があると佐々木さんは言う。
「たとえば、オーガニックコットンって、肌触りが良いだけでなく、農薬を使用しないことで土や環境へのダメージを抑え、さらに作る人の健康を守ることができます。そうしたサステナブルなものづくりが当たり前になってほしいと思います。」

誰かの役に立っているということ

最近では大手百貨店や話題の商業施設でポップアップショップ販売をする機会が増えてきたというヘラルボニー。お客さまと直に接する中で、消費者の意識の変化を感じていると言う。
「特に福祉文脈で商品を売っているわけではないのですが、アートの鮮やかさに目を止めて手に取ってくださる方が多いです。ヘラルボニーを知らなかったお客さまも、販売員の説明で商品の裏にある背景を知り、購入していただくケースもあります。今の時代、手元に物はたくさんあって、それでも購入するというものには何か理由を必要としているように感じます。ヘラルボニーの商品を買うことでサステナブルなことに貢献できたり、アーティストの収入につながったりと、誰かの役に立っていることに価値を感じていらっしゃるのではないでしょうか。」

ヘラルボニーが目指す世界

海外と比べて日本ではまだアール・ブリュットの認知度が低い。佐々木さんは日本でアール・ブリュットの価値を高めながら、世界中のアーティストとコラボレーションすることが夢だとワクワクした様子で話してくれた。
「3年前の創業当初は、誰にも相手にされず仕事もほとんどありませんでしたが、近年SDGsやサステナブルなことに関心を持つ企業が増え、徐々に世の中に認知されるようになりました。岩手というローカルな土地にルーツを持ちながら、国内にとどまらず世界的に知られるブランドになりたいという希望があります。」
また、ヘラルボニーの活動を通して、障害のある人に対する世間の見方を変えることも目標としていると話してくれた。
「生活の中にヘラルボニーの商品があり、自然と誰かの役に立っていることが理想なので、身近にある家具などにアートを落とし込んでいます。また、障害者というと構えてしまうことがあると思います。しかし、障害のあるアーティストが描いた絵を見た後で、その人に会うとまた違いませんか。障害者と健常者の垣根がなくなっていくことが本当の意味でのダイバーシティだと思います。」

取材後記

佐々木さんはアーティストを共に働くビジネスパートナーだと断言する。アパレルの世界において第一線で活躍されてきた佐々木さんだが、彼らのアートは決して練習して描けるものではないと言い、言葉の端々に尊敬の念がうかがえた。アーティストたちの可能性に純粋にワクワクしているのも印象的だった。

「障害者=助けてあげる存在」という意識はあっても、障害のあるアーティストが描く色鮮やかなアートや商品に心が癒やされたり、幸せな気分にさせてもらえたりすることに改めて気づくことができた。また、サステナブルなことは特別なこと、取り組まなければならないことという感覚がどこかにあったが、それが当たり前になり障害・健常問わず誰もが住みやすい世の中になることを切に願いたい。

【参照サイト】ヘラルボニー
【参照サイト】日本エムテクス
【参照サイト】改正障害者雇用促進法|厚生労働省

table source 編集部
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table source 編集部では、サステナビリティやサーキュラーエコノミー(循環経済)に取り組みたいレストランやホテル、食にまつわるお仕事をされている皆様に向けて、国内外の最新ニュース、コラム、インタビュー取材記事などを発信しています。
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