今、世界では資源の枯渇や気候危機など、年々深刻化する環境問題に対する人々の意識が高まっている。そうした意識の変化に伴い問題視されているのが、今まで当然のように行われてきた、大量生産・大量消費・大量廃棄の経済の仕組み「リニアエコノミー(直線方経済)」だ。
平成24年度に「みずほ情報総研株式会社」が実施した「大量生産・大量消費型の経済に関する意識」という調査では、従来のリニア型の仕組みを「変えていく必要がある」「どちらかと言えば変えていく必要がある」と回答した人が約80%にのぼった。これまで廃棄物とされてきたものを資源と考え活用することで、資源を循環させる新しい経済システム「サーキュラーエコノミー」にも注目が集まっており、あらゆる分野での循環型の仕組みづくりが求められている。
そうしたなか、廃棄されるテーブルクロスを資源として活用し、“テーブルクロスの循環“を実現したのが「株式会社ワールドサービス」だ。創業以来、ホテルの結婚式場やパーティー会場で使われるテーブルクロスのレンタル事業を展開してきた同社は、“サステナブルであること”に徹底的にこだわったテーブルウェアブランド「eterble(エターブル)」を立ち上げ、2022年10月6日より公式オンラインストアにて販売を開始した。今回のインタビューでは、「eterble」の開発担当者である葉山氏と渡辺氏にブランドを立ち上げた背景や今後の展望について、お話を伺った。
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「廃棄を0に」。決意のきっかけはコロナ禍の市場の変化
「株式会社ワールドサービス」が、“サステナブルであること”にこだわり始めたきっかけは、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う、社会と価値観の変化だったという。
葉山氏「eterbleの企画は2019年の夏ごろからはじまっていましたが、当初はまったく異なるコンセプトでした。当時はオリンピック前ということもあり、華やかで特別感のある日本を代表するようなテーブルクロスを考案していましたが、2020年2月にコロナ禍に突入し、企画を一時中断することになりました。人々の働き方や価値観などが大きく変化し、家で過ごすいわゆる『おうち時間』が増え、それに伴ってテーブルウェアに対するニーズも大きく変わっていきました。」
家で過ごす時間が増えたことで、生活空間を美しく整え日々を丁寧に暮らしたいと考える人が増えたと同時に、消費者の環境意識も変化した。2020年10月に「株式会社電通」が実施した意識調査によると、30.9%の回答者がコロナ禍に伴う自粛期間によって「エシカル消費に対する意識が高まった」と回答した。葉山氏はこうした市場の変化をきっかけに、事業内容や製造工程を改めて見つめ直し、従来のリニア型のビジネスモデルの改革を決意したという。
葉山氏「まだまだコロナ禍のさなかではありましたが、2021年4月から企画を再開しました。ワールドサービスが提供するテーブルクロスは、人生の一大イベントである結婚式や特別なパーティーで使用されるものです。そのため、小さな傷やクリーニングしても取れない汚れがついたものを使用するわけにいかず、やむを得ず処分するしかありませんでした。しかし、コロナ禍を経て“永遠を誓う瞬間”であるウェディングで使われるテーブルクロスが、地球や社会の未来を傷つけるものであってはいけないと考えるようになり、テーブルクロスを廃棄しないことを決意しました。」
こうしてワールドサービスは、“サステナブルであること”に徹底的にこだわった商品企画の強化や、社員の意識改革に取り組んだ。そして、約1年間の研究開発期間を経て再生のリサイクルテーブルクロス「eterble fabric(エターブルファブリック)」の開発に成功。2022年10月6日にリリースした「eterble」のファーストコレクションでは、使えなくなったレンタルテーブルクロスを再生した独自開発のリサイクル生地「eterble fabric」を使ったテーブルクロスと、「サステナブルコットン」を使用したテーブルクロスの2種類を発表した。
オリジナルのリサイクル生地「eterble fabric」とは
渡辺氏「独自開発のリサイクル生地『eterble fabric』は、自社廃棄のテーブルクロスを再生させたポリエステル生地です。一流ホテルや結婚式場、パーティー会場にレンタルができなくなったテーブルクロスを色ごとに分類し、裁断します。その後、色ごとにリサイクル糸として生まれ変わり、高度な紡績、織り、縫製技術を経て、新しいテーブルウェア製品になります。原材料には自社廃棄を100%使用しているため、原料がどのような場所で、どういった用途で使われていたものかが明確であることも特徴のひとつです。」
近年、繊維業界では、染色工程で生じる水の大量消費や水質汚染への影響が問題視されている。そこで、ワールドサービスは「eterble fabric」の開発にあたり、廃棄されるテーブルクロスを色別に管理し、それらの元の色を活かすことで追加の染色を不要にした。これにより、水の消費量を削減したと同時に、廃棄となるテーブルクロスを焼却する際に使用していた燃料の削減、温室効果ガスの排出量の削減も実現した。
葉山氏「eterble fabricを開発するうえで、環境への配慮だけでなく、品質やデザイン性にもこだわりました。従来の業務用のテーブルクロスは、シワになりにくいという利点からポリエステル製が好まれやすく、光沢のある質感のものが主流でした。しかし、私たちはポリエステルの利点はそのままに、マットな質感で自然のなかに存在するようなナチュラルな色味を、追加の染色をせずに表現しようと試行錯誤を重ねました。そして、裁断したテーブルクロスをさまざまな配合で混ぜ合わせることで、理想を実現しました。」
さらには、こうした色味と質感へのこだわりに加え、テーブルクロスの「ドレープの美しさ」も追求。繊細さを求められる難易度の高い縫製はウェディングドレスを作るお針子さんに依頼し、ひとつ一つ手作業で仕上げているという。
人や地球に配慮した「サステナブルコットン」を採用
「eterble fabric」によるテーブルクロスと同時に発表されたのが、「サステナブルコットン」を使ったテーブルクロスだ。コットン原料となる「綿花」の栽培には、他の農作物よりも大量の殺虫剤が使用されている。「青年海外協力協会(JOCA)」によると、世界で綿花の栽培に使用されている耕地面積は地球上の全耕地の2.5%であるのに対し、殺虫剤の使用用途ではコットン栽培が農業全体の15.7%を占めているという。
市場に流通する綿花の多くを栽培しているのは、発展途上国の零細農家だ。世界最大規模のコットン生産国として年間約600万トンを生産するインドでは、約35万人以上の子供が綿花の栽培に従事しており、子供の学習機会の喪失を招いている。また、綿花生産者の多くは貧困問題を抱えているため、大量に使用する殺虫剤や農薬から身を守る防護服を購入することができない。識字率も低いため安全に関する注意書きを読むことができず、殺虫剤を直接的な原因とした死者数は年間2万人、入院者数は年間100万人にのぼるという。
「eterble」では、こうした問題の解決に貢献するため、トレーサビリィが明確なコットンを「サステナブルコットン」と定義し使用することで、環境汚染や労働者の健康被害、児童労働などさまざまな問題に配慮した商品を提案している。
品質とデザイン性が好評。お客さまからの反響
2022年10月6日にリリースしたファーストコレクションは、サステナビリティの観点からだけでなく、品質やデザイン性から関心を持つ人も多かったという。
「eterble fabricのテーブルクロスのように、マットな質感と落ち着いた風合いの商品はなかなか無かった。」「甘すぎない自然な色味は他の家具や食器との相性もよく、空間と調和する。」などの声が多く寄せられている。また、「もともと披露宴やパーティーなどお祝いの席で使われ、ウエディングドレスをつくるお針子さんが縫い上げているという背景のあるテーブルクロスを使うことで、食卓が明るくなりそう。」といった、商品の持つストーリー性に注目するお客さまも。
「eterble」は、エシカルな消費活動を通じてさまざまな社会・環境問題の解決に貢献したいと考える人、心地よい豊かな生活に対するこだわりをもっている人、自分らしい価値観で毎日を楽しみながら過ごしている人から選ばれているという。
サステナブルなテーブルウェアの普及を通じて、「食」を取り巻くバリューチェーンを循環型へ
2023年の夏にリリースを予定している「eterble」の新たなコレクションでは、より食卓シーンで手軽に扱えるランナーやランチョンマットなどのアイテムの展開を予定している。ワールドサービスは、サステナブルなテーブルウェアの普及促進活動を通じて、未来の豊かな生活と社会の実現に向けた新たなライフスタイルを提案していきたいという。
また、従来のリニア型のビジネスモデルが限界を迎えつつある今、メーカーとして持続可能な商品を提案することで「食」を取り巻くバリューチェーン全体が、よりサステナブルな循環型のビジネスモデルに移行できるよう活動を進めている。
編集後記
近年、消費者の環境意識の向上に比例して「エシカル消費」の需要が高まっている。2021年11月に消費者庁が公開した調査の結果によると、人や社会、環境に配慮した消費活動を指す「エシカル消費」に関心があると回答した人は89.6%だった。2020年の調査で「エシカル消費」に関心があると回答した人は59.1%、2016年の調査では35.9%だったことと比較すると、消費者の環境への意識が近年急速に高まっていることがわかる。
2015年9月に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の12番目の目標「つくる責任つかう責任」でも、天然資源の効率的な利用や、廃棄物の発生防止や再利用による廃棄量の削減が挙げられた。生産者には資源の消費量をできる限り減らし、より長く使える良質な商品をつくること、消費者には廃棄物の量を減らし、持続可能な商品を長く大切に使うことが求められている。そうしたなかで、株式会社ワールドサービスのように、サーキュラー型のビジネスモデルへの移行を積極的に推進する企業の商品を選ぶことは、持続可能な社会の実現に貢献し、お客さまのエシカル消費に対するニーズを満たすことにもつながるのではないだろうか。
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【参照サイト】eterble 公式ホームページ
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【参照サイト】サステナブルなテーブルウェアブランド「eterble(エターブル)」がファーストコレクションを発表
【参照サイト】環境省:第2章 真に豊かな社会の実現に向けて
【参照サイト】Cotton: World Markets and Trade
【参照サイト】JOCA連載コラム vol.7
【参照サイト】国連大学ウェブマガジン Our World モンサント社の綿花事業における失態
【参照サイト】国際協力NGO ACE-インド・コットン生産地の児童労働
【参照サイト】消費者庁:外食及びエシカル消費に関する 意識調査結果
【参照サイト】消費者庁:エシカル消費(倫理的消費)に関する 消費者意識調査報告書の概要について