コロナ禍で旅行の在り方が見直されたことなどを背景に、観光業界では「エコツーリズム」への注目が集まっている。エコツーリズムとは、地域の自然や文化を保全しながら、観光旅行者に伝え、体験しながら学ぶ仕組みのこと。
2022年6月9日に公開された調査によると、「サステナブルな旅は自分にとって重要である」と回答した人は世界全体で81%、日本人回答者では73%を占めた。消費者の環境への意識が高まる昨今、ホテルとしても環境に配慮した取り組みは必須だと言える。
そうしたなか、SDGsが採択された2015年以前から、環境への取り組みを20年以上継続してきたのが「琵琶湖ホテル」だ。同ホテルは2022年9月、世界初の食器(ボーンチャイナ製品)をリサイクルした肥料「BONEARTH(ボナース)」を活用したホテル内での紫蘇栽培に取り組み、お客さまへの紫蘇ジュースの提供を行った。今回は、琵琶湖ホテルが推進してきたこれまでの取り組みや紫蘇栽培の様子、琵琶湖ホテルが目指す未来についてお話を伺った。
目次
琵琶湖ホテル
滋賀県大津市の「琵琶湖ホテル」は、日本一大きな湖「琵琶湖」を望む全室レイクビューが魅力のリゾートホテル。1934年の開業以来、時代の変遷を琵琶湖と共にしてきた同ホテルは、2000年代初頭より環境に対する高い意識を持ち、琵琶湖や里山をはじめとした滋賀の自然環境の保全活動に取り組んできた。
2022年5月には、「観光品質認証協会」の運営する認証制度・サクラクオリティの「An ESG Practice認証」において、『3御衣黄ザクラ』を国内宿泊施設として初獲得。“国際的に求められるSDGsの取り組みを実践する宿泊施設”として認証を受けた。開業88周年にあたる2022年には、歴史と伝統を守りつつ、次の時代へ繋ぐ新たなサービスにチャレンジしたいという想いのもと、お客さまへの「感謝」と「未来」をテーマに、開業88周年のコンセプト『人と街と自然がつながるSDGsな未来へ』を掲げた。
琵琶湖ホテルの環境への取り組み
■「里山の食彩プロジェクト」による里山環境の保全
環境をビジネスの中で守り続けるために、まずは環境保全とビジネスを“持続可能な循環型システム”にしていくことが大切だと考えたという琵琶湖ホテル。一方で、「リラックス」を求めてホテルを訪ねるお客さまに対して、環境負荷の低減を呼びかけることは、我慢を強いることにつながってしまうのではないかという懸念もあったという。
こうしたさまざまな想いのなかで、“ホテルと環境保全が繋がる最善策“として琵琶湖ホテルが辿り着いたのが「里山の食彩プロジェクト」だ。お客さまに美味しい地元の食を提供しながら、食材ができる里山環境を守るため、「食べることが守ること」を合言葉に2002年より写真家の今森光彦氏と共に、里山の棚田とそこで作られるお米を守る取り組みをスタート。「日本の棚田百選」に指定されている高島市畑地区と大津市仰木地区の農家と契約し、地元の生産者、そしてお客さまと共に地産地消を実現した。
■琵琶湖を取り巻く自然の姿を再現「山野草プロジェクト」
また、2009年にスタートした「山野草プロジェクト」では元々は観賞用のツツジが植えられていた花壇スペースに、在来種を中心に約110種類の山野草を植えた「山野草ガーデン」を創設。多様な生物の宝庫である「棚田のあぜ」を再現する取り組みだ。
琵琶湖を取り巻く環境を守ること、守るべき自然の姿を再現することで、何もしなければ崩れ行く生態系の危機とその重要性をお客さまにも感じていただき、共に活動していくことを目指しているという。
また、山野草プロジェクトの一環として野菜の栽培も行い、収穫体験を通じた地元の子どもたちへの食育活動にも取り組んでいる。
■全客室のプラスチック製アメニティ設置を廃止/環境に配慮したアメニティの販売
2022年4月からは、歯ブラシ&歯磨き粉セットや髭剃り、ヘアブラシなど、全客室内の使い捨てプラスチック製アメニティの設置を廃止し、竹製歯ブラシ&歯磨き粉セットや木製ブラシなどの環境に配慮したアメニティを販売。普段から使い慣れたアメニティをお客さまご自身でご持参いただく「ライフスタイル型」の滞在を提案している。
また、客室内のバスアメニティには、同じ京阪グループ「株式会社ビオスタイル」の石油系成分無配合、ノンシリコン処方のオーガニックコスメブランド「NEMOHAMO」を採用。食材からアメニティまで、環境に配慮した調達に積極的に取り組んでいる。
BONEARTHを活用した紫蘇の栽培
■BONEARTHを活用した紫蘇栽培が始まったきっかけ
2009年にスタートした「山野草プロジェクト」の一環として、さつまいもや水菜などさまざまな野菜の栽培に取り組んできた琵琶湖ホテル。そうしたなかで、「循環型社会の実現を目指すサステナブルな肥料・BONEARTHの活用によって、循環の仕組みを共創することはできないか?」と考えたことが、BONEARTHを活用した紫蘇栽培が始まるきっかけだったという。
このBONEARTHが花や実をたくさん付けたい場合に最適なリン酸肥料であること、栽培を開始する時期が夏であったことから、夏場にお客さまに提供できる葉野菜として「紫蘇」を採用。琵琶湖ホテル初の紫蘇栽培をスタートさせた。
■BONEARTHとは
「BONEARTH」とは、老舗用食器メーカーの「ニッコー株式会社」が開発した、世界初の食器をリサイクルした肥料。ニッコーは、同社が提供するボーンチャイナ製食器(NIKKO FINE BONE CHINA)の原料に約50%含まれる「リン酸三カルシウム」が肥料として有効なことに着目し、開発をスタート。そして、生産過程で生じる規格外品を肥料としてリサイクルする技術を確立し、2022年2月10日、農林水産省より肥料としての認定を受け、同年4月より販売を開始した。
大量生産・大量消費・大量廃棄の消費活動から、持続可能な循環社会への移行が求められている昨今の社会のなかで、“食器としての役目を終えた後も、廃棄せずに新たな形で活用できないか”という社員の想いからBONEARTHの開発をスタート。豊かな食の未来を守るため、「サーキュラーエコノミー(循環経済)」の原則に沿った取り組みを推進している。
■紫蘇栽培の様子 / 紫蘇ジュースの反響
紫蘇の栽培から収穫、調理まで中心となって取り組んだのは、普段はホテルで接客をしているスタッフだ。これまで栽培してきた野菜もホテル内のレストランにてお客さまに提供してきたが、調理はレストランのキッチンスタッフ担当していたため、栽培から調理、提供に至るまで同じメンバーが担当したのは初めてのことだという。
今回の紫蘇栽培では、あえてBONEARTHを使用して栽培する区画と、使用せずに栽培する区画を分けて栽培。栽培に携わった琵琶湖ホテルマルチタスク部部長の前田芳昌氏は「目で見てすぐにわかるほど、BONEARTHを使用した区画の方が、成長速度が早いと感じました。」と、肥料効果をはっきりと実感できたという。
琵琶湖ホテルが思い描く今後の展望
「環境と観光の共生地」になることを目指して、地域の環境や地域とのつながりを大切に、20年以上前からサステナビリティへの取り組みを推進してきた琵琶湖ホテル。さまざまな活動を推進するなかで、取り組みがただの慈善活動にならないよう、ビジネスとして売上につなげていく工夫が必要だった。
そのためには、お客さまに楽しんでいただきながら「宿泊したことで、環境保護の活動に貢献できた」という付加価値を提供し、“ファンを獲得すること”が重要であると、取り組みを通して改めて気が付いたという。琵琶湖ホテルでは、今後滋賀県の伝統野菜の栽培も検討しており、収穫した伝統野菜を提供することでお客さまに滋賀県の良さを知っていただくと同時に、発信を続けていくことで環境保護活動とファンづくりの両立を目指している。
食器についても、ゆくゆくは琵琶湖ホテルで使用したのち、割れやかけなどが発生したニッコー株式会社のファインボーンチャイナ製の食器をBONEARTHにリサイクルし、その肥料を使って琵琶湖ホテルで野菜を栽培。そして、収穫された作物が食材として調理され、再び琵琶湖ホテルのテーブルに戻ってくる。そうした循環の仕組みを実現したいと考えているという。
現在は、回収した食器は産業廃棄物としてみなされるため、さまざまな法規制がある。今すぐの実現は難しいが、そうしたなかでもニッコーは、食に関わる業界全体として循環型社会を実現するために取り組みを進めている。
近年、地球温暖化や海洋汚染、森林破壊など、年々深刻化する地球環境問題が顕在化している。こうした諸課題の解決策として、新たな経済システム「サーキュラーエコノミー」に注目が集まっている。琵琶湖ホテルとニッコーが思い描く未来が実現すれば、サプライチェーン全体として循環型のビジネスモデルを実現することができるのではないだろうか。
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【関連サイト】ニッコー株式会社公式サイト
【参照サイト】琵琶湖ホテル 公式ホームページ
【参照サイト】Booking.com Sustainable Travel Report 2022
【参照サイト】琵琶湖ホテル 開業88周年記念イベントを開催~人と街と自然がつながるSDGsな未来へ~
【参照サイト】琵琶湖ホテル「山野草プロジェクト」 10月19日(水)“秋のさつまいも収穫祭”開催 ご取材のお願い
【参照サイト】7/10(土)植物まるごとコスメ「NEMOHAMO」の「ボディソープ」がリニューアルさらに、環境にやさしい「詰替パック」も新登場!