海に漂うプラスチックごみが原因で、生態系を含めた海洋環境の悪化や海岸機能の低下、漁業や観光への影響などの様々な問題を引き起こす「海洋プラスチック問題」。海洋プラスチックごみというと、真っ先にプラスチック製ストローを思い浮かべる方も多いのではないだろうか。2018年に1本のストローがウミガメの鼻に刺さっている動画が拡散され、全世界に衝撃を与えた。以来、スターバックスやマクドナルド、ハイアットホテルなど、数多くの大企業がプラスチックストローの削減に動きだしている。
日本では2021年の6月に使い捨てプラスチックなどの削減を目指す「プラスチック資源循環促進法」が成立し、2022年の施行に向けて、使用廃止や削減、代替品への置きかえなどの取り組みが進んでいる。
今回は、プラスチック製ストローの代替品「サトウキビストロー」を販売し、ストローを基点に様々な循環型ビジネスを展開している、株式会社4Nature(フォーネイチャー)の代表、平間亮太さんにお話を伺った。
コーヒーを美味しく楽しく。そのための選択肢の一つにしてほしい
平間さんとサトウキビストローの出会いは、2018年のはじめ。台湾の友人の紹介がきっかけだったという。
「台湾はサトウキビの生産が盛んなのですが、サトウキビの絞りカスのほとんどが焼却されたり堆肥化されたりして処分されているため、国全体で活用法が模索されています。僕はもともと台湾が好きで、よく遊びに訪れていたところ、台湾の友人が、この“バガス”と呼ばれるサトウキビの絞りカスのアップサイクルに取り組んでいるベンチャー企業のことを教えてくれたんです。サトウキビストローに興味を持ったので、現地まで話を聞きに行きました。」
もともと環境問題に興味があった平間さんは、サトウキビストローに可能性を感じ、すぐさま起業を検討したという。間もなくサトウキビストローを製造する工場も決まり、2019年の初めから輸入・販売を開始した。
「商品化に先立ち、2018年の夏の時点で試作品のストローを持っていくつかのカフェをまわりました。その際にあるカフェの方に、コーヒーショップが今後どのようにプラスチックと関わっていくべきかを考える勉強会『コーヒーとプラスチックのこれから』というイベントが開催されることと、イベントを主催する渋谷の環境団体530week(ゴミゼロウィーク)について教えていただきました。
早速530weekの方を訪ねたところ、『確かにストローの数は減らしていきたい。しかし一番大切にしたいのは美味しい・楽しいという部分。ストローをただ排除するのではなく代替品を活用することで美味しさや楽しさを保つことができるのでは。バガスが堆肥化できるものなら、ぜひ小さな規模でもコンポスト化してみてはどうか』という意見をいただいたんです。サトウキビストローは天然成分100%の商品ですし、台湾でも堆肥として利用されています。“土からできたものを土に還す”というのは当たり前のことだという自分自身の想いもあり“回収の仕組み”についても、商品の販売と同時に進めていこうと思いました。」
サトウキビストローは、よくある紙製のストローに比べると耐久性に優れている上に、雑味もないため風味を損ねることなくコーヒーを楽しむことができる。また、少しザラザラした質感とバガスそのままのナチュラルな色合いが、使う人に「プラスチックではないストローを提供している」と気づいてもらいやすいというメリットも生んでいる。
また平間さんは、サトウキビストローはあくまでも一つの”選択肢”だと話す。
「サトウキビストローも、切り替えれば良いわけではなく、捨てるものをできるだけ減らした上での代替品だと思っています。リユースのできるステンレスや陶器のストローを導入するのも一つですし、持ち帰りや衛生面、金属アレルギーの方のためにサトウキビストローを使うなど、それぞれのお店がそれぞれの状況で良いと思うものを選べることが大切だと思っています。」
消費することがゴールではない、その先をしっかりと考えるきっかけに
平間さんによると、2021年10月現在でサトウキビストローの採用店舗は累計で約800店舗にものぼるという。サトウキビストローを採用しているのは、どのような店舗が多いのだろうか。
「やはり環境や地域社会への意識の高い方が多いのですが、それ以上にお客さまとのコミュニケーションを大切にしている方が多いと感じています。反響としては、サトウキビストローを提供することでタッチポイントが増え、お客さまとの会話につながったというお声をよく聞きます。
また、ストロー回収にあたり、飲食後の返却口のところに『燃えるごみ』『燃えないごみ』ともうひとつ『ストロー』という分別を増やすことになります。お客さまの手間を増やしてしまうことになるのですが、意外なことに飲食店の方から『ストローの分別を増やしてから、お客さまが他のごみもより丁寧に分別してくれるようになった』といったご報告がありました。ただ使うだけでなく、使用後に回収というフローを設けることで、お客さまの意識にも自然と変化があるのかもしれません。」
環境配慮の面でも意識啓発の面でも、またコーヒーを楽しむという機能性の面でも優秀な代替品といえるサトウキビストロー。しかし平間さんは「売ることや消費することがゴールではない」と語る。
「現在、各店舗から回収されたストローは千葉県佐倉市にある4Natureの堆肥処理場に集めて、堆肥化しています。そこでは、コーヒーのカスなど飲食店から集めた生ごみも一緒に堆肥化しているんです。それには二つ理由があって、一つは、ストロー単体の回収ではどうしても量が少なく、輸送の際の排気量などの環境面やコスト面での問題が出てきてしまうためです。生ごみも回収することで、一度の運搬でまとまった分量を運ぶことができます。二つ目の理由は、自分たちの堆肥処理場は小規模なものなのですが、小規模だからこそ、このサイクルを農家さん達にとって実現可能なモデルケースにしてもらいたいと思っているからです。例えば、農家さんが飲食店へ野菜を届けに行く際に、ストローやコーヒーのカスを回収して堆肥化し、自分たちの畑に撒く。その畑で採れた野菜を、また飲食店へ届ける、というサイクルです。野菜を卸しに行くだけの移動に、堆肥原料のピックアップという役割も加わることになります。今後、地方の農家さんへもこのシステムを展開していければと思っています。」
4Natureはさらに、サトウキビストローに限らず、生分解性材料のカトラリーなどのアイテムもこのサイクルに加えていくことで、より循環のシステムを充実させていく予定だ。
飲食店と消費者と農家を結ぶ、これからの循環システム
今後ますますの広がりが期待される循環システム。現状の課題についても伺った。
「全国で多くの店舗に採用いただいていますが、現時点でのストロー回収が都内に限られていることが大きな課題です。少しでも早く全国展開したいと思っています。また、商品に関しても国内製造をするなど、できるだけ小さな経済圏の中で行えるようにしたいです。
まずは私たちがひとつのフォーマットをしっかり作ることで、そのフォーマットに地域の特色も合わせて自走していけるようにしたいです。そして、全国各地の農家さんの力をお借りしながら、農家さんにもしっかりメリットがあるような形で展開していくことが大事だと考えています。」
農家の方々にとってもメリットがないと循環システムを全国で展開していくのは難しい。そこで農家の方を支援するために、4Natureが取り組んでいるのが、CSA(Community Supported Agriculture)と呼ばれる地域支援型農業の考え方を活用したシステムだ。
「農業は生産から販売までの期間が長く、天候にも非常に左右される産業です。現在の通常のマーケットでは、手間暇かけて作られたものが適正に評価されていないのが現状です。対価として反映されないため、こだわった分だけ損をするということもある。こうした現状が、飲食店にとっても『作り手の見える、安全で安心なこだわりの食材を使いたい』という要望も叶えにくくしています。
この問題を解決するためのコミュニティの仕組みがCSAです。皆さん毎日野菜を食べますよね。その野菜を年間分、各々が余裕のある範囲で前払いし、農家さんはそのお金で設備投資や作付け計画を行っていく。そこでできた野菜を季節ごとにCSAの会員さんに届けます。農家さんにとっては経済面でもモチベーションの面でもメリットがありますよね。また、この流れができることで、小規模農家の方が販路の開拓などの営業活動に使っていた労力を、よりこだわった生産に注ぐことができ、会員の皆さんは新鮮なこだわりの野菜を手にできます。」
4NatureではこのCSAの仕組みに加えて、農家さんが消費者の方に野菜を渡す際に、消費者の方々が家庭でコンポストした堆肥を農家さんに渡し、その堆肥を使って農家さんがまた野菜を作れるような仕組みを準備中だ。
「農家さんにとっては、卸しに行く際に優良な堆肥が手に入るというメリットになりますし、消費者の方にとっても、作った堆肥を有効活用してもらえるというメリットがあります。
さらに、飲食店がそのピックアップスポットを担うことで、飲食店の近隣の方々にCSAのことを知ってもらえます。『あの野菜美味しかったよ』『いただいた堆肥をこんな風に使っているよ』といったコミュニケーションの場としても活用してもらい、農家さんと消費者と飲食店の、大きな循環の仕組みを作っていきたいと考えています。私達がCSAの管理とマッチングさえ行えば、東京に限らず地方でも展開することができると思います。」
顔と顔の見えるやりとりが、循環の仕組みを支える
新しい取り組みへの挑戦を続ける4Natureだが、創業当時から変わらないのが平間さんの「自分がやりたいのは街づくり」という想いだ。
「効率化のために中央集権化が進み、物があふれる世の中にはなりましたが、人と人とのつながりや温かさは失われてきたように思います。今の社会に必要なものはこの温かさだと思うんです。循環の仕組みを作っていく中で、人と人との交流が生まれる。顔と顔が見えるからこそ、生まれる優しさがあると思っています。『あの人に食べてもらう野菜』『この人に使ってもらう堆肥』『あの人に飲んでもらうコーヒー』というように、顔が見えているからこそ丁寧で優しいやりとりが生まれますよね。この“社会寛容性”こそ、循環の仕組みを機能させていく一番大事なポイントだと思っています。」
編集後記
4Natureは「ビジネスの力でバランスの取れた優しい世の中に」というミッションを掲げている。今回、平間さんから伺ったお話はどれも一貫して、「顔と顔が見える仕組みを作ることで、お互いを思い合える世の中にしたい」というまっすぐな想いを感じさせるものだった。確かに、ごみを不法投棄するような人も、友人の家の庭には捨てないだろうし、近所のお婆さんが作って持ってきてくれた野菜は無駄にならないよう使うだろう。こうしたつながりが、廃棄物の削減やフードロスの削減といったサスティナビリティを生む。常に優しい世の中を目指し変わり続ける4Natureの今後も楽しみだ。
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【関連ページ】 NIKKO Sustainable Selection:サステナブルな調達をお考えの飲食店・ホテルの皆さまへ
【参照サイト】 4Nature
【参照サイト】 530week
【参照サイト】 農研機構:CSA(地域支援型農業)導入の手引き