エコツーリズムとは

エコツーリズムとは、地域の自然や文化を保全しながら、その魅力を観光旅行者に伝えたり体験してもらうことで学びを深める仕組みのこと。また観光旅行者に地域の資源を伝えることによって、地域の住民も自分たちの資源の価値を再認識し、地域の観光のオリジナリティが高まってさらに活性化するといったメリットもある。2013年から環境省により「エコツーリズム推進法」の基本方針が示され、翌年に施行されたことや、コロナ禍で旅行の在り方が見直されているといった背景から、無視できない考え方となってきている。

観光業界の現状

新型コロナウイルス感染症の流行により、ホテルの稼働率が著しく低下している状況が続いている。世界旅行ツーリズム協議会の「エコノミック・インパクト・リポート2020」によると、コロナ禍以前の世界の観光関連従事者は10人に1人であり約3億3000万人にのぼるという。世界のGDPのうち約10.3%を占め、経済の重要な役割を担っていた観光業だが、新型コロナウイルス感染症拡大に伴い各国の往来がなくなったことにより、観光地におけるオーバーツーリズムがもたらす環境への影響が世界各国で浮き彫りとなった。インドでは交通量が減少したことによる大気汚染物質の排出量が減少し、封鎖措置が敷かれたイタリアのヴェネチアは運河の水質が改善したことは話題になった。そうしたなかで、エコツーリズムが注目されるに至った。

エコツーリズムの導入例

ヒルトングループ

ホテル大手ヒルトングループは「Travel with Purpose(目的を持った旅を)」という企業責任戦略を掲げ、環境に配慮した新しい旅のスタイルを提案している。例えば、モルディブでは家族で学べるサンゴの保護プログラムを提供。宿泊者自身がサンゴを保護し、さらにそのサンゴが十分に成長し自然の生息地に移植されるまでの約1~2年の間、サンゴの成長についての最新情報がホテルから送られてくる。これにより宿泊客の海洋保全に対する意識の継続を図っている。他にも、インドネシアでは地元の業者や生産者と協力して、地元の食材を使った料理をホテルで提供するプロジェクトを始動。ゴミの削減に注力しているオーストラリアでは、従来埋め立て処分を行っていた石鹸のリサイクル活動を実施し、廃棄予定だった石鹸を約2.4トン削減した。

ヒルトン、環境に配慮した新しい旅のプログラムを提供開始


さらに日本においても、サステナブルシーフードを積極的に取り入れ、2021年に海洋管理協議会(Marine Stewardship Council、以下MSC)および水産養殖管理協議会(Aquaculture Stewardship Council、以下ASC)のChain of Custody認証(加工・流通過程の管理の認証)を取得した。宿泊者はホテルで食事をする際、MSCまたはASCのエコラベルが付いたメニューを選ぶだけで、持続可能な漁業や養殖場を支援できるようになっている。このように各国でその土地を活かした取り組みを行い、環境負荷を軽減しつつも旅を楽しめるという新たなスタイルを提案している。

ヒルトン、サステナブルシーフード調達推進に取り組む企業とパートナーシップを締結

エイチ・アイ・エス

環境に配慮した旅の仕方を「選択できる」というエコツーリズムもある。株式会社エイチ・アイ・エスのアメリカ現地法人H.I.S. International Tours (NY) Inc.は、2021年9月16日にサステナブルツーリズムを推進するための新ブランド「Copolo」を立ち上げ、アメリカ、カナダ在住者に向けた旅行予約オンラインサイトを開始した。Copoloを利用すれば、予約時に旅行者自身の意思で、環境に配慮した旅の仕方を選択できる。そして気候変動対策のスタートアップ企業であるCHOOOSE™と提携することで、旅行者が自身の旅行により排出される二酸化炭素をフライト・ホテル・レンタカーごとに計算することができるようになっている。そこで算出されたカーボンオフセット料金は、CHOOOSE™を通じ、二酸化炭素の排出を削減、捕捉、または回避するプロジェクトの支援に充当されるという仕組みだ。

HISアメリカ法人、環境に配慮した旅の仕方を選択できる新ブランド「Copolo」を始動

エコツーリズムを進めることによる効果

2021年10月に 楽天トラベルが実施した「旅行や観光分野のサステナビリティへの取り組みに関する意識調査」によると、旅行先や宿泊施設でのサステナビリティに向けた課題例に対し、問題意識を感じると答えた人が74.6%だったという。また2021年12月にアイグッズ株式会社が行ったホテル旅館に関する旅行者の意識調査では、「環境に配慮している宿が好印象だ」と答えた旅行者が全体の71.1%を占めた。さらに、年に6~10回以上旅行をするリピーター層では地球に配慮した消費である“エシカル消費”を「とても意識している」「意識している」人が約74.7%にも及んだ。

環境に配慮しているホテル旅館、71%が好印象と回答。旅行者の意識調査で明らかに


エコツーリズムを進めることにより新たな観光客の獲得やリピーター獲得に繋がる可能性があると言える。今後、上記の取り組みを参考にしつつエコツーリズムを推し進めていきたいところだ。

【参照サイト】 環境省:エコツーリズム推進基本方針
【参照サイト】 Economic Impact Reports
【参照サイト】 Travel with Purpose
【参照サイト】 楽天トラベル:旅行・観光におけるサステナビリティへの意識調査