アニマルウェルフェアとは
日本語では「動物福祉」「家畜福祉」と訳される。家畜を感受性のある生き物と捉え、できる限り健康的な生活ができるよう扱う考え方のことを指す家畜の飼育環境を整えることでストレスや疾病を減らすことができ、結果として生産性の向上や安全な畜産物の生産など、サステナブルな生産につながるというメリットもある。
この飼育方法において、政府間機関である国際獣疫事務局(OIE)では、家畜に与えるべき「5つの自由」という指針を示している。「5つの自由」とは、「飢え、渇き及び栄養不良からの自由」、「 恐怖及び苦悩からの自由」、「 物理的及び熱の不快からの自由」、「苦痛、傷害及び疾病からの自由」、「通常の行動様式を発現する自由」を指す。
家畜飼育の現状と問題点
家畜擁護団体ザ・ヒューメイン・リーグ・ジャパンによると、世界では家畜の94%が工業型畜産(限られたスペースの中で家畜を飼育し、コストを抑えながら生産効率を上げようとする農業形態)の手法で育てられているという。国土面積の小さい日本では特に、1戸あたりの飼育頭数が年々多くなっていることが問題視されている。例えば、養鶏業においては1戸あたりの飼養頭数が、ここ10年で約1.5倍に増加している。豚、乳用牛、肉用牛についても増加傾向にあることがわかっている。

豚及び採卵鶏の飼養戸数・頭数の累計|農林水産省

乳用牛及び肉用牛の飼養戸数・頭数の累計|農林水産省
狭い環境での飼育では、動物たちは運動不足や日照不足となり、ストレスを感じてしまう。動物たちの日常的な健康状態の悪化に加え、飼育密度が高くなればなるほど、伝染病が広まるリスクも懸念される。また、飼育に薬剤を用いる場合は、動物だけでなく飼育する人間側にも身体的影響を及ぼす可能性がある。
日本の家畜飼育の現状
日本において、どのような飼育方法が主流であるか、家畜の種類別に紹介する。
採卵鶏
採卵鶏の飼育方法にはアニマルウェルフェアの考えに近い順に「放牧」「平飼い」「エンリッチドケージ」「バタリーケージ」の4つの飼い方がある。公益社団法人畜産技術協会の報告によれば、日本の92%の採卵養鶏場が「バタリーケージ」を採用しているという。公益社団法人畜産技術協会の報告によると、日本の92%の採卵養鶏場が「バタリーケージ」を採用しているという。
肉牛・乳用牛
農林水産省では、運動不足解消などの牛にとっての快適性だけでなく、生産性についても利点があることから、放牧の実施を推奨している。しかし、2019年の放牧頭数は、乳用牛で全体の約20%、肉用牛で約17%であり、いまだ繋ぎ飼いなどの牛舎内での飼育が主流であることがわかっている。放牧を推進するため農林水産省では公共放牧の利用を促している。公共牧場とは、畜産農家の労働負担の軽減や不足する飼料基盤の補完などを図るため、地方 公共団体や農協等が出資し、畜産農家の乳用牛や肉用牛を一定期間預かり、飼養管理を行う牧場だ。2019年においては700カ所程度が稼働している。
豚
母豚が出産する際に使用される「妊娠ストール」をご存知だろうか。母豚たちの受胎・流産の確認や給餌管理がしやすいという理由で用いられるストールは、豚一頭がピッタリ入る大きさで、豚たちは座る・寝る・立つ以外はできず、転回することさえできない。一般社団法人日本養豚協会の2018年度の調査によれば、養豚生産者の91.6%が妊娠ストールを使用しているという。
アニマルウェルフェアを実現する飲食店
世界にはこうした問題に対して、行動を起こしている飲食店もある。
HUGO DESNOYER
「世界一の肉の目利き」と評される肉職人HUGO DESNOYER(ユーゴ・デノワイエ)は、牧草や飼料に化学肥料を使用せず、牛一頭につき1ヘクタールの広いスペースを確保した自然放牧をすることで、牛本来の生活の実現を目指している。さらに、と畜直前までクラシックを聞かせ温かいシャワーを浴びせるなど、極力ストレスを与えないようにしているという。飲み水は湧き水を使用し、その成分を何回も検査して最適な水を選定。そうしてできた肉は多くの著名人や有名レストランから指名買いをされている。
平田牧場
平田牧場は豚の健康を最優先に考えるため、通気性がよく、豚が自由に歩き回れる広さの開放型豚舎を採用。一頭あたり約1㎡の面積が確保されており、ストレスを与えることなく、のびのびと育てることをモットーとしている。また生後120日以降は原則として抗生物質は使用しない、飼料には動物性たんぱく質を一切含まず遺伝子組み換えがされていないとうもろこしや大豆粕などを使用するといった、豚の健康に配慮した取り組みを進めている。
Yum! Brands, Inc.
KFCやピザハットなどを運営するレストランチェーンYum! Brands, Inc.(ヤム・ブランズ)は2026年までに、米国、西ヨーロッパなどの25,000店のレストランで使用するすべての卵を100%ケージフリーに移行すると宣言している。
タコやカニなどの十脚目および頭足類に関する最新の研究
2021年11月19日、イギリスの研究機関が「タコやカニ、ロブスターなどの頭足類も痛みや苦痛などを感じる『知覚』を持っている」という研究結果を発表している。
アニマルウェルフェアとヴィーガン
近年、増加傾向にあるヴィーガン。ベジタリアン(菜食主義)の中でも特に厳格で、肉・魚介類・卵・乳製品を一切食べず、植物性食品のみ摂取する。宗教上の理由や倫理上の観点または健康目的でヴィーガンを選択する人が一定数いたが、近年ではアニマルウェルフェアや環境配慮といった理由も上がるようになってきている。欧米では、アニマルウェルフェアを訴えるデモが街中で頻発していたり、アニマルウェルフェアをテーマとしたドキュメンタリーが増えていることも、ヴィーガンが増加している要因になっている。また、「動物を搾取しない」という考えのもと、蜂蜜など動物由来の食品の摂取や動物製品(皮製品・シルク・ウール・羊毛油・ゼラチンなど)を身につけることを禁じている人も多い。
【参照サイト】国際獣疫事務局
【参照サイト】家畜擁護団体ザ・ヒューメイン・リーグ・ジャパン
【参照サイト】公益社団法人畜産技術協会
【参照サイト】公共牧場・放牧をめぐる情勢|農林水産省
【参照サイト】一般社団法人日本養豚協会
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