健康面や環境面などへの配慮からヴィーガンに関心を持つ人が増えてきている。観光庁の調べでは日本に旅行で訪れたベジタリアンが飲食店等を選定する際、「ベジタリアン等の専門店でなければ入店しない」と回答したのは約2割だが、「対応店でなければ入店しない」と回答したのは約5割にも上るという。ヴィーガンではさらにこの傾向が強まるようだ。また、日本でも著名人がヴィーガンやベジタリアンを公表したことなどにより、若い女性を中心に新たな食文化として定着しつつある。
そこで、今回はヴィーガンの概要や押さえておきたいポイントを紹介したい。
1.ヴィーガンとは
一般的にベジタリアンが肉や魚を食べないのに加え、ヴィーガンは卵・乳製品・はちみつなどの動物性食材も一切口にしない完全菜食主義者のことを指す。最近ではラクト・ベジタリアン(肉・魚・卵を食べず、乳製品は摂取する)やぺスコ・タリアン(肉は食べず、魚や卵・乳製品は摂取する)などベジタリアンの分類が細かくなってきているが、ヴィーガン食はこれら全てを網羅している。
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近年では、週に数回や月に数回など期間限定でヴィーガンの食生活を送る「パートタイムヴィーガン」にも注目が集まっており、気軽にヴィーガンを始める方法として推奨されている。
2.ヴィーガン人口や市場について
株式会社フレンバシーの調査によると、2017年に1.0%だった日本におけるヴィーガン人口は2019年には全体の5.7%となった。また、週に1回以上、意識的に動物性食品を減らす「フレキシタリアン」は全体の16.8%に達したという。これは2年前の12.5%から4.3%ポイント上昇している。また、近頃食品メーカー各社で「代替肉」「大豆ミート」関連の商品が続々と登場しており、国内の肉代替市場が年率1.3~1.7倍にも伸びるという。
世界最大級のベジタリアン・ヴィーガンレストラン検索アプリ「Happy Cow」(年間約7000万PV・14万店舗以上掲載)では、2021年8月現在で日本の2687店舗が掲載されており、2020年6月から350店舗以上増加している。コロナ禍にもかかわらずレストランの対応数が増えていることが伺える。
3.なぜヴィーガンを選択するのか
従来からあるような宗教的な理由や体質に合わないという理由以外にもヴィーガンを選択する理由がいくつかあるので紹介したい。
・エシカルヴィーガン
動物愛護目的でヴィーガンになった人をいう。アニマルウェルフェアの考えに近く、革製品や毛皮、動物性の成分の入った化粧品なども基本的に使わない。
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・エンバイロンメンタルヴィーガン
家畜の排泄物やゲップ、オナラから発生するメタンガスは温室効果が二酸化炭素の20倍と言われており、畜産が温暖化を加速させているという。こうした環境保全を理由にヴィーガンを選択している人もいる。
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・ダイエタリーヴィーガン
体調不良や体質改善を目的としている。ヴィーガンを選択して、アレルギー体質が改善されたという実例もある。
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4.対応方法
ここでは具体的な対応方法について難易度順に3つ紹介したい。また、合わせてメニューにヴィーガン対応と表記することや、日本ベジタリアン協会によるJPVSレストラン認定やベジプロジェクトジャパンによるヴィーガンベジタリアン対応 Markなどを活用することも有効だ。
1.メニューは変えずに一部の食材を抜いたり変更したりする
例えば、天ぷら料理を提供する場合に魚介類を野菜に変更したり、卵不使用の衣を使用したりする。この際、通常メニューと同じ油で揚げないことや、出汁に動物性の食材が使用されていないことなどにも留意しなければならない。
2.ヴィーガン対応の新規メニューを考案する
ハンバーガーを提供する店では、肉を大豆ミートなどの代替肉にして、乳・卵不使用のバンズを使用することで、ヴィーガン対応メニューの実現が可能だ。また、マヨネーズなどの調味料もプラントベース食品を用意する必要がある。
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3.コンタミネーションを防止する
厨房で調理する際、調理器具や揚げ油などを介して動物性食品が意図せず混入することがある。ヴィーガン対応食を調理する場合はコンタミネーション(異物混入)が起きないよう、工程や配膳などを徹底的に分ける必要がある。しかし、ヴィーガン専門店や専用厨房を設置していない限り非常に難しいことなので、「コンタミネーションが発生しないよう最大限努力しているが、可能性はある」と来店客に伝えることも重要だ。
5.まとめ
冒頭で触れたように、「ヴィーガン対応店」というだけで、選択される可能性が大きくなる。外国人観光客だけでなく友人同士の集まりでもヴィーガンの人が一人でもいれば、全員が満足できる店を選びたいと思う人は多いはずだ。また、ヴィーガン料理に使う原材料は野菜や海藻なので基本的に原価は安く、利益も出やすいというメリットもある。日本ならではの発酵食品を多用するなど、飲食店のクリエイティビティを発揮できる機会にもなるだろう。
一方で、手順や食材を間違えればクレームなどのトラブルが発生するリスクがある。調理法を勉強することが負担になるという懸念もあるだろう。しかし、ヴィーガン市場の増大や食の多様性に柔軟に対応することで来店客が増え、食事をする全ての人に満足してもらえるのであれば、挑戦してみる価値はあるのではないだろうか。
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【参照サイト】飲食事業者等における ベジタリアン・ヴィーガン対応ガイド|観光庁
【参照サイト】ヴィーガンの定義
【参照サイト】第2回日本のベジタリアン・ヴィーガン・フレキシタリアン