新型コロナウイルス感染症の拡大により、2020年2月以降、日本を訪れる外国人旅行者数は大幅に減少した。しかし、2023年1~6月までの累計では1,000万人を超え、徐々に回復の兆しを見せている。今後も外国人旅行者の増加が予想される中で、多様な食習慣への対応が求められるだろう。
そのような背景があるなか、ヴィーガンに対応した飲食店も増加傾向だ。ヴィーガン向けの食事を提供することは、外国人観光客だけでなく、サステナビリティ意識の高い日本人からの需要にも応えることができる。本記事では、ヴィーガン向けの食事提供を考えている飲食店向けに、食材や栄養素について紹介する。是非ヴィーガン向けメニュー作りの参考にしていただきたい。
ヴィーガンに対応した食事メニューの考え方
ヴィーガン向けの食事を提供するために最も重要なことは、ヴィーガンについて知ることだろう。また、それ以外にもメニューを考える上で知っておくと役立つこともある。ここでは、食事メニューを考える上でのヒントになることをいくつか紹介しよう。
ヴィーガンとは何かを再確認
ヴィーガンとはベジタリアンの一種であり、ピュア・ベジタリアンとも呼ばれる。宗教・動物愛護・環境保護・健康志向などの背景から、肉や魚だけでなく卵や乳製品、ハチミツなど動物性の食品は一切摂取しない完全菜食のスタイルだ。
観光庁の資料によると、海外旅行にて飲食店等を選定する際、「ベジタリアン等の対応店でなければ入店しない」と回答した人は約5割にのぼったという。当然、ヴィーガンの人だと更にその傾向が強まる。このことから、多様な食習慣へ対応することは飲食店の喫緊の課題だといえるだろう。
ヴィーガン仕様の食材を知る
ヴィーガン対応メニューを考えるにあたり、ヴィーガンが食べられる食材を知ることが重要だ。野菜や果物のような一般的な食材だけでなく、植物性の代替え食品などヴィーガン仕様に開発された食材も取り入れることで、メニューの幅を広げられる。
栄養バランスを意識する
ヴィーガンは、完全菜食主義のため食材の制限が多く、栄養不足に陥る可能性もある。そのため、ヴィーガン仕様の食事を提供する場合は、栄養バランスを考慮したメニューを取り入れる必要があるだろう。具体的にどういった栄養が不足しがちなのかを把握した上で、足りない栄養素を補う食材を積極的に取り入れることが重要だ。
ヴィーガン仕様の食材を紹介
ヴィーガンが食べられる食材は、野菜や果物など生鮮食品や調味料、ヴィーガン仕様に加工した食材まで多岐にわたる。ここでは、生鮮食品や調味料などの一般的な食材と、加工した食材に分けて紹介しよう。
野菜、果物
野菜や果物はヴィーガンでも制限無く食べられる。ただし、台湾に多いオリエンタル・ヴィーガンの人は仏教の思想に基づき、匂いの強い五葷(ニンニク、ニラ、ラッキョウ、ネギ、アサツキ)は食べられない。五葷を使用する場合は、メニューに表記するなどの配慮が必要だ。
穀物
ヴィーガンは穀物も制限なく食べられる。白米や玄米のほか、うどんやパスタのような小麦を使った食材なども使用可能だ。ただし、パンには基本的に乳成品が含まれているため、フランスパンなど乳製品が含まれないものを選ばなくてはならない。
大豆製品
大豆製品も制限無く食べられる食材だ。豆腐や厚揚げ、納豆、おからなど大豆を使用した食材も多い。大豆ミートと呼ばれる植物由来の代替肉も人気だ。大豆は、ヴィーガンにとって不足しがちなタンパク質を補えるため、積極的にメニューに取り入れるべき食材と言えるだろう。
ナッツ類
ナッツ類はアレルギーに注意する必要があるものの、制限なく食べられる食材のひとつ。アーモンド、カシューナッツ、くるみなど間食として用いられる食材が多い。栄養価が高い一方で、脂質が多く高カロリーのため、食べすぎには注意が必要。
調味料
調味料に関しても塩、醤油、酢、みりんのような基本的な調味料は制限無く摂取することができる。ただし、味噌は注意が必要で、出汁が添加されたものは避けなければならない。出汁には、かつおだしなど動物性の原料が使用されているため、出汁が添加されていない味噌を選ぶ必要がある。
また、意外と見落としがちなのがゼリーなどに含まれるゼラチンだ。牛などの動物の骨や皮から作られるため、ヴィーガンの食材としては使用できない。寒天などで代用する必要があるだろう。
甘味料
甘味料といえば、白砂糖を思い浮かべる方も多いだろう。しかし、白砂糖などは製造の過程で骨炭と呼ばれる動物の骨を焼いて炭状にしたものを使って濾過を行うため、摂取を控えるヴィーガンも存在する。未精製砂糖、ココナッツシュガーなど完全に植物由来のものを使用することが好ましいだろう。
ヴィーガン仕様に加工した食材例
卵や乳製品などを摂取できないヴィーガンでも食べられるよう、加工した代替食材も存在する。先ほど紹介した食材とあわせて使用することで、メニューの幅を広げられるだろう。ここでは、いくつかの食材例を紹介する。
プラントベース(植物性)ミルク
世界には、様々な種類の植物性ミルクがあり、日本でもおなじみの豆乳やココナッツミルクだけでなく、キヌアミルクなど日本国内で販売されていないミルクも存在する。
牛乳とは異なる栄養を摂取できるため、ヴィーガンだけでなく健康志向の方からも注目されている。種類も豊富なため、飲用だけに限らず様々なメニューに活用できるだろう。
【関連記事】 最先端、世界の「植物性ミルク」15種類。日本未進出のミルクも紹介
プラントベース(植物性)ミート
2022年秋、世界のプラントベース食品業界を牽引するとも言われているアメリカ企業 「BEYOND MEAT, INC.(ビヨンドミート)」が、東京都の「ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社(U.S.M.H)」と、日本における独占販売契約を締結し、日本に進出。ビヨンドミートは、高い生産技術を用いて牛肉、豚肉、鶏肉の代替肉を生産し、欧米、アジア、オセアニア地域で広く事業展開を行っている。
ビヨンドミートはエンドウ豆をベースに代替肉を作っているが、日本国内で最もポピュラーな代替肉といえば大豆ミートだろう。「マルコメ」や「プリマハム」、「日本ハム」などの大手企業も大豆ミートを商品化している。
【関連記事】 代替肉大手ビヨンドミートがついに日本上陸。マルエツやマックスバリュなどで販売
植物性カスタードクリーム
植物性カスタードクリームは、植物由来のココナッツミルクパウダーと豆乳を使用したプラントベースフードだ。油脂食品の製造販売を行う月島食品工業株式会社が開発し、「プラボカスター/MB」として2023年5月より販売を開始した。
やさしい味わいとなめらかな食感が特徴で、そのまま絞ったり、パンやケーキに挟んだりと、様々な用途で使える。
【関連記事】 卵の価格高騰・品薄への対応策にも。植物性のカスタードクリームが発売
植物性卵白パウダー
植物性卵白パウダーは、卵白の置き換えとして使用可能な食材だ。食品や飲料の輸入販売を行う日仏貿易会社は、2023年2月よりフランス発の「ユンゴ・ブラン・パウダー」の販売を開始した。
植物性のスイーツは、卵白を使用するレシピと比較して味が劣ると言われている。しかし、植物性卵白パウダーを活用することで、ヴィーガンでもおいしく食べられるスイーツを作ることができる。
【関連記事】 フランス発、植物性の卵白パウダーの国内販売スタート。鶏卵白と同じ機能が特徴
ヴィーガンの食事で不足しがちな栄養
ヴィーガンは動物性の食事を摂取しないため、カロリーを抑えられ、肥満の解消に繋がったり、腸内環境を整えたりと様々なメリットがある。一方、完全菜食主義がゆえ栄養が偏るリスクがあることは避けられないだろう。ここでは、ヴィーガンが不足しがちな栄養素を紹介する。
たんぱく質
肉や魚を摂らないヴィーガンにとって、不足しがちな栄養素として一番懸念されるのがたんぱく質だ。ヴィーガン仕様の食事からたんぱく質を摂取するためには、大豆やナッツ類を積極的に取り入れる必要がある。
ただし、大豆加工食品に多く含まれる大豆イソフラボンは、過剰摂取すると健康を害する恐れがある。内閣府・食品安全委員会の資料によると、上限摂取目安量は64~76mg/日とされているため、注意が必要だ。
ビタミンD
ビタミンDは、魚に多く含まれる栄養素である。植物性の食材から摂取する場合は、エリンギやまいたけ、えのきなどのキノコ類を摂取するのが良いだろう。また、食品からの摂取以外の方法として日光浴も有効な手段である。
ビタミンB12
ビタミンB12は、神経及び血液細胞を健康に保つことができる栄養素である。植物性食品にはほとんど含まれないため、ヴィーガンの場合シリアルなどビタミンB12を強化した食品の摂取が必要だ。
鉄分
鉄分は、肉類や魚介類に多く含まれており、不足すると貧血を起こしやすくなる。植物性食品から摂取する場合は、がんもどきやピュアココア、豆乳からの摂取が必要だ。
オメガ-3脂肪酸
オメガ-3脂肪酸であるEPAとDHAは脂肪の多い魚や甲殻類に多く含まれる。EPAやDHAとは異なるが、同じくオメガ-3脂肪酸のα-リノレン酸(ALA)については、植物油や亜麻仁油に含まれているため、ヴィーガンの人は植物油などから摂取が可能だ。
カルシウム
カルシウムは歯や骨に多く存在し、血液などにも関わりがあり、体内で重要な役割を担う栄養素である。近年の国民健康・栄養調査によると日本人のカルシウム摂取量は目標を充たしておらず、ヴィーガンに限らず積極的に摂取すべき栄養素だ。植物性食品の中では生揚げや豆腐類に多く含まれている。
ヴィーガン仕様の食材を活用して食事メニューの幅を広げよう
ヴィーガン仕様の食材は、生鮮食品だけでなく、植物性カスタードクリームなどの加工食品も開発されている。これらの食材を織り交ぜることでメニューの幅が広がり、ヴィーガン向けの食事を提供しやすくなるだろう。
近年はヴィーガン市場の増大に伴い、ヴィーガン対応の飲食店が増えている。外国人観光客やサステナブル意識の高い日本人に向けて、ヴィーガンに対応した飲食店を目指すのも良いのではないだろうか。
【関連記事】
【参照サイト】 日本政府観光局訪日外客数(2023年6月推計値)
【参照サイト】 観光庁:飲食事業者等におけるベジタリアン・ヴィーガン対応ガイド
【参照サイト】 内閣府/食品安全委員会:大豆イソフラボンを含む特定保健用食品の安全性評価の基本的な考え方
【参照サイト】 国立研究開発法人:ビタミンD
【参照サイト】 厚生労働省:ビタミンB12
【参照サイト】 国立研究開発法人:鉄
【参照サイト】 厚生労働省:オメガ3脂肪酸
【参照サイト】 国立研究開発法人:カルシウム
【参照サイト】 国立研究開発法人:亜鉛